彦四郎の中国生活

中国滞在記

NHK大河ドラマ「麒麟がくる」❷―麒麟とは何か―中国神話に現れる、鳳凰と双璧をなす「霊獣」

2020-01-22 08:27:11 | 滞在記

 NHK大河ドラマ「麒麟がくる」の"麒麟"とは何か。キリンは中国の神話に現れる神聖な生き物であり、鳳凰とは双璧をなす「霊獣」である。中国の書物『礼記』によれば、「王が仁のある政治を行う時代に現れる神聖な珍獣」とされ、鳳凰・霊亀・応龍とともに「四霊」と総称されている。麒麟は獣類の長とされ、鳳凰は鳥類の長ともされる。

 中国語では麒麟は(qilinチーリン)と発音され、英語でもQilin(チーリン)と発音される。形は鹿に似て大きく、顔は龍に似て、牛の尾と馬の蹄をもち、身体には鱗がある。基本的には一角だが、二本角、三本角の姿で描かれる例もある。普段の性格は非常に穏やかで優しく、足元の虫や植物を踏むことさえ恐れるほど殺生を嫌うとされる。

 中国北京市の郊外にある中国・清王朝時代の大庭園と建築群が甍(いらか)を誇る「頤和園(いわえん)」。世界一の規模の王室庭園・建築群ともいわれている。ここに「麒麟」の像があった。

 木蓮の白い花が満開を迎えた2017年の4月上旬、初めて麒麟の像を見た。ここの麒麟は鹿のような2本の角があった。北京の紫禁城(故宮)には青い麒麟の香炉があった。清の時代のものらしい。明時代の1609年に『三才図会』というものに描かれた麒麟の図は私たち日本人の麒麟図のイメージに近い。

 明時代の宦官「鄭和(ていわ)」による数回にわたる南海大遠征・航海により、アフリカ東海岸から実在動物のキリンを始め、ライオン・ヒョウ・ダチョウ・シマウマ・サイなどを中国に運び、1419年に時の永楽帝に献上した。この時のキリンは、その後の中国・日本の麒麟像に多少の影響(尻尾や顔)も与えている。

 日本人にとって「麒麟」と言えば、麒麟麦酒(ビール)の商標として描かれている麒麟像。この麒麟像は、顔は龍、髪は獅子(ライオン)、身体に鱗があり、鹿や馬の身体を持つ像だ。もう一つは、東京・日本橋にある麒麟像。東野圭吾の推理小説『麒麟の翼』(2012年映画化―新参者シリーズの一つ)での、冒頭の場面にはこの日本橋の麒麟像が物語の舞台となっている。

 日本橋の麒麟像は4体ある。そのいずれにも翼がある麒麟像だ。日本橋は1603年の江戸開府の時代につくられ、東海道など5つの主要街道の起点ともなった。現在の日本橋は1911年につくられ、この時に麒麟像も置かれた。ここを起点に全国に飛び立つイメージをもってつくられたようだ。ちなみに日本橋には獅子像もおかれている。

 由緒ある日本橋と麒麟・獅子像だが、橋の上に高速道路の高架があり風情が失われている。往年の風情を取り戻すために、日本橋周辺の高速道路の地下化が検討され始めている。

 「麒麟」と双璧をなす神鳥が「鳳凰(ほうおう)」だ。私が教えた中国人の学生たちの名前には、この「鳳」の一字をもつ女子学生たちも少なくない。中国の古典書物などによれば、頭は鶏、首は蛇、頷(がん)・下あごは燕、背は亀、尾は鯉魚とされ、首には「徳」・翼には「義」・背には「礼」・胸に「仁」、腹に「信」の紋様があるとされた。後世に日本に伝わり、中国と日本ではそのデザインに変化が生じた。

 鳳凰は、霊泉だけを飲み、60年~120年に一度だけ実を結ぶとされる竹の実のみを食物とし、鳳凰の卵は不老不死の霊薬とされる。また、仙人などが住むとされる伝説上の山・崑崙山に鳳凰は住んでいるとの伝説も。日本では、京都の金閣寺の金閣の屋根の上に金色の鳳凰が置かれている。また、宇治・平等院鳳凰堂の屋根に置かれたりしている。現在の日本の1万円札の裏面にはその鳳凰堂の鳳凰図が描かれている図案。手塚治虫の「火の鳥」に描かれるのも鳳凰だ。伝説の崑崙山があるともされる中国西南部・広西チワン族自治区の省都・南寧には鳳凰像があるようだし、中国の紫禁城には鳳凰像が置かれていた。(※中国西部のタクラマカン大砂漠の南方にそびえる崑崙山脈にも崑崙の地名があてられている。)

 ◆「麒麟がくる」の題名はなぜつけられたのだろうか。タイトルら込められた意味とは?次回に。