彦四郎の中国生活

中国滞在記

台湾総統選❺福島香織氏「習近平指導部が受け入れるべき現実」記事―香港・周庭氏を北大が招聘

2020-01-18 15:30:30 | 滞在記

 台湾総統選挙結果が明らかになってから およそ1週間あまりが経過した。この間ほぼ毎日 「台湾総統選」関係の中国のインターネット記事も閲覧している。ほぼ100くらいの中国インターネット台湾関連記事を閲覧しただろうか。関連記事はとても多く、溢れかえっているという感すらある。しかし、1つの記事以外は、韓氏・蔡氏の獲得得票数などは書かれていなかった。つまり、ほとんどの中国国民は選挙結果については「蔡氏が当選した」ことしか書かれていない記事しか見ていないと思われる。しかも、選挙に蔡氏が勝ったのは、「邪悪な不正選挙」によるものだったという内容も多い。

 記事の内容は、ほぼ これでもかこれでもかと、「蔡氏の再選は、台湾の人々にとって今後さらなる困難・困窮・厄災など」をもたらすとも報じる内容。

 今朝もそのような中国のインターネット記事を閲覧していたら、「日本知名学府騒乱港分子周庭为研究員 遭网友群嘲」という見出し記事があった。香港の民主化運動のシンボル(女神)的存在として、日本のテレビ報道番組でもたびたびその発言や映像が出ていた周庭(アグネス・チョウ)氏である。彼女は日本語にもけっこう堪能だ。彼女は香港民主活動家の黄氏とともに、中国では「香港騒乱暴力分子活動」を引き起こしている極悪人扱いの報道がされている。

 その周氏が日本の北海道大学の研究員として招聘されたという内容の記事だった。もちろん、このことにたいして北海道大学を厳しく批判する記事内容だった。「北海道大学は暴力を支持するのか。香港警察に逮捕拘束されたことのある暴力分子の者を招聘するとは」と批判。これは1月17日付の北海道新聞の「北大・香港民主活動家 周庭氏を研究員として招聘」に対する中国での反応だ。(北海道大学公共政策大学院の特別研究員としての招聘。大学側が決定したのは昨年の11月のこと。)

 北海道大学といえば、昨年の9月に中国当局によって身柄を拘束され、2カ月後の11月中旬頃に解放された北海道大学法学部教授の岩谷氏が所属する大学だ。私の娘もかってこの大学の教育学部の学生だった。娘が在学の頃、京都に帰省して一冊の「北海道大学入学案内要項」の冊子を差し出し、「ここに私の写真が写っているねん。でも、法学部の案内ページに。」と。

 その北大(北海道大学)の法学部教授・岩谷氏所属の大学に周庭氏が研究員として招聘されていたとは驚きだった。中国政府サイドから大学に対して抗議をされたりする可能性が高いことは自明のことだからだ。それでも、あえて、北大はそれに踏み切ったことになる。北大の中国政府に対する抗議の現れとみることもできる。

            ※上記左端写真:福島香織氏、左から2枚目:周庭氏に取材時の福島氏

 かって産経新聞社の北京特派員(支局長)で、現在は中国関連の(特に政治経済社会)記事を多く書き、十数冊の書籍も執筆している福島香織氏の1月9日付(台湾総統選2日前)のインターネット記事(yahoo japan)を紹介したい。この記事はA4版5ページほどの記事だったが、以下はその記事の最終章に書かれた部分だ。「蔡英文圧勝の可能性と習近平が受け入れるべき現実」と題された記事で、最終章は次の通り。

 ◆蔡英文政権2期目突入の大きな意味

 さて、今回の総統選でもし民進党・蔡英文政権が勝利し2期目に突入するとしたら、その意味は歴史的なものになるかもしれない。

 1つには、習近平は香港への対応だけでなく、台湾への対応も失敗し、中台統一の機運をほぼ永久的に失うかもしれないからだ。この事態は、「習近平の失態」として党内で問題になるかもしれない。1年前までは蔡英文再選の目などなかったのだ。

 人民を豊かにするという目標を掲げるも経済成長が急減速していくなかで、中国共産党一党独裁の正当性を維持するために台湾統一は必須であった。それが不可能になれば、共産党の執政党としての正当性は根底から揺らぐ。台湾総統選挙で蔡英文が勝利すれば、それは習近平の敗北である。

 さらに、歴史的に国民党推しだった米国が初めて民進党推しに転じての選挙であり、米台の安全保障面での緊密化は加速していくだろう。中国の金銭外交によって国際社会での孤立化が急速に進んだ蔡英文政権だったが、米国との急接近は台湾の国際社会における地位を大きく押し上げることになる。

 さらに言えば、蔡英文政権の後を頼清徳政権が引き継ぎ、通算16年の長期民進党政権時代が誕生する可能性も出てきた。それだけの時代があれば、台湾アイデンティティは、中華アイデンティティと異なる形で確立でき、また官僚や軍部に根強く残る国民党利権、しがらみも浄化できるかもしれない。東シナ海に、中国を名乗らず、脱中華を果たした成熟した民主主義の自由な華人国家が誕生することになれば、それは近い将来に予想される国際社会の再編を占う重要な鍵となるだろう。

 かなり私的な期待のこもつた見立てではあるが、今も続く香港の若者の命がけの対中抵抗運動と、米中対立先鋭化という国際社会の大きな動きの中で、台湾は国家としての承認を得られる二度目のチャンスに恵まれるかもしれない。(※福島香織氏の文章は以上)

 ◆この福島香織氏の文章について、「中国共産党評価」に関しては私の意見とかなり異なる部分もある。しかし、今回の台湾総統選挙の意義については、賛同する部分も多い。

 ◆習近平氏は、長く中国福建省で、廈門(アモイ)市の幹部や福州市の幹部、福建省の幹部などの生活を長く送っている。そして、現在の妻との新婚生活もここで過ごしている。福建省は台湾海峡(※私が暮らす福州市から台湾の台北市まではは約130km。この距離は、京都市から私の故郷に近くの福井県敦賀市までの車での走行距離と同じ。)で台湾と面し、香港までもわりと近い。

 このこともあり、台湾と中国の統一(中台統一)には、強い思いを持っている人だ。「中国国家主席の最長任期期間(10年)や年齢制限」を一昨年秋に撤廃して、習近平氏の権力基盤を盤石化した。その撤廃動機の大きなもののなかには、この中台統一への悲願があるように思う。その統一悲願は、できれば中国共産党設立100周年にあたる2022年までにという思いもあっただろう。毛沢東氏も鄧小平氏も成し遂げられなかった「中台統一」を自分の手でという思いはとても強いかと思う。しかし、ここ数年間の、台湾・蔡政権に対するものすごい圧力は逆に裏目と出ているようだ。かえって台湾や香港の人々への「嫌中感」を増大したように思えるのだが。方針の転換も必要かと思う。

◆かって、中国の鄧小平氏は、中日間の尖閣諸島の問題を問われ、「今の我々には知恵がありません。今は放っておきましょう。でも2、3世代すぎたら、賢い人が現れるかもしれない」という趣旨のことを述べた。なかなかの知恵と聡明さを含んだ言葉である。自分がトップの時に、早めに解決したいと思うのは人の常かもしれない。でも、ある程度、人間の歴史を考えてみたら、カッカした時は互いに冷却期間を置くという知恵は とりわけ国家指導者には求められるものだとは思う。

 習近平氏をはじめとする中国政府指導部は、今後、さらなる台湾・蔡英文政権への圧力路線を強化していく方針のようだが、カッカしたこの方針・対応のままでは「武力侵攻」以外の選択肢が狭まって来る可能性が高い。そうなれば、どんな展開になるか 今のところ予想はちよっと困難だ。知恵と聡明さが求められていると思う。これがないと、その政権は ある時を転機にポキンと弱体化していくのも世の常だ。

◆以上で、台湾総統選挙❶〜❺を終わります。

 

 


台湾総統選挙❹「NEES WEEK(日本語版)」今週号、「台湾人意識」で読み解く総裁選と中台の未来

2020-01-18 09:32:15 | 滞在記

 昨日17日、京都市内の丸善書店にて、今週号の「NEWS WEEK(日本語版)」のある記事が目に留まり立ち読みをした。"「台湾人意識」で読み解く総裁選と中台の未来"と題された1ページ記事だった。この記事の内容は、私のブログの前号「台湾総統選挙❸」で書いたものをさらに深く取材・執筆している とても優れたものだった。執筆者は江懐哲(台湾アジア交流基金研究員)。

 この記事の全文を以下紹介したい。

 1月11日投開票の台湾総統選は、本稿執筆時点で、現職の蔡英文(民進党)が再選を果たす情勢だ。1年前は不人気に苦しんでいたが、メディア戦略の強化や対立候補である韓国瑜(国民党)の失態、香港で続くデモなどの要因により巻き返しに成功した。

 早くも、今回の総統選の結果が今後の中台関係に及ぼす影響が論じられている。しかし、中台関係の未来を見通す上では、1回の選挙結果よりも「台湾人意識」をめぐる世代間格差の拡大に目を配ったほうがよさそうだ。

 有力経済紙「天下雑誌」の世論調査によれば、自分を台湾人だと思うか、中国人だと思うか、両方だと思うかという問いに対して、20〜29歳の82.4%は、自らを台湾人とだけ思っていると答えた。この割合は、40〜49歳、50〜59歳の年齢層では全て50%後半だった。中国との将来の関係については、20〜29歳の49.4%、30〜39歳の33.5%が(中国との平和が保てるのであれば)独立を望むと回答した。

 それだけではない。2018年に国立政治大学(台北)の選挙研究センターが実施した世論調査によれば、中国が武力により台湾を併合した場合に戦うつもりがあるかという問いに対し、20〜29歳の71.6%が「イエス」と回答している。

 台湾が正式に独立を宣言し、それに対して中国が武力行使で応じた場合に戦うかという問いに対しても、この年齢層の64.5%が「イエス」と答えている。この割合は全世代の平均を7.8ポイント(%)上回る。

  ―中国の戦略にも影響― 同じ世論調査のほかの質問項目を見ると、若者たちが台湾の民主主義的制度を高く評価していることがよくわかる。このような台湾世論の新しい潮流に、台湾の主要政党と中国政府はどのように対応しているのか。

 蔡率いる民進党は台湾人意識の形成を後押しし、若者の支持を獲得している。昨年7月には、14年の大規模な学生運動「太陽花(ヒマワリ)革命」のリーダーだった林飛帆が民進党の副秘書長(副幹事長)に就任。総裁選と同日の立法委員(国会議員)選挙にも、若い新人立候補者が続々と立候補した。

 民進党の若い候補者の多くは、中国が台湾の民主主義を脅かしていると公然と語り、国防の強化を訴えてきた。民進党は、若い有権者の意識が変わり始めていることの恩恵を受けられそうだ。一方、今回の選挙で韓を押し立てた国民党は、変化に乗り遅れている。立法委員選挙の立候補者の平均年齢は民進党より高く、親中派とみられている人物も少なくない。中国寄りの姿勢は有権者の反発を買い、韓の選挙戦に悪影響を及ぼした可能性もある。

 若者の意識の変化は、台湾政治の構造を少しずつ変えていくはずだ。それは中台関係にも大きな影響を及ぼす。中国政府も変化を無視するわけにはいかなくなる。中国は、国民党以外の台湾政党とも対話し、台湾の人々の心をつかむことに本腰を入れざるを得なくなりそうだ。

 中国にとって、中台統一への台湾の人々の支持を高めることはますます難しくなる。武力に訴えるほかないと感じても不思議はない。しかし、それは最も有効な選択肢とは言い難い。戦争になった場合に中国が勝つ保証もない。中国政府はこの点を見誤らないほうがいい。  (※記事全文は以上)

 ◆この1週間あまり、中国のインターネット記事を閲覧し、読者のコメントなどを見ていると「武力侵攻すべき」との声が高まってきているなあという感じもする。これらのコメントを中国政府が容認しているということは、台湾併合の選択肢として「武力行使」の声も政府内に高まってきているか、また指導部自身も「将来的にも台湾総統選での勝利の困難さ」から、武力行使選択の方に針に揺れ始めていることかもしれない。

※上記写真左端:林飛帆氏、右端写真:頼氏と蔡氏

 上記の記事で名前の挙がってる「林飛帆」氏(民進党副幹事長)は31歳。民進党には副幹事長(副秘書長)が3人いる。それぞれ、行政、組織、広報といった業務を担当していて、林氏は主に「世論・国際・青年・インターネットの各部」を管掌する「広報」を担当している。(林氏は、台湾の「国立曁南国際大学」や「国立成功大学」を卒業後、「国立台湾大学」大学院やイギリスの「ロンドン・スクール・オブ・エコノミク政府専攻」の大学院課程を修了している。また、2年ほど前に結婚している。

 日本の雑誌「東洋経済」誌の原稿依頼により、台湾人ジャーナリストの楊虎豪氏が林飛帆氏にインタビューした記事が、Yahoo Japanに今年の1月17日付で掲載されていた。A4版7ページにわたる記事だった。記事項目の見出しは、1・学生運動の旗手はなぜ民進党幹部になったのか 2・今回の総統選・立法院選挙おいて、どんな役割を果たしたのか 3・議会選挙は有権者のバランス感覚が働いた 4・今回の選挙で、民進党は立法院の過半数を維持できたが、比例区での得票数は国民党とそれほど差がなかったが、この結果をどう考えるのか 5・国民党が再起する可能性はあるのか 6・国民党が敗北した理由は何か 7・民進党の4年間の成果は何か、また未解決の課題は何か 8・待ったなしの年金制度改革 9・ヒマワリ運動から6年が経過したが、台湾は良い方向へ進んでいるか 10・「一国二制度」は受け入れられない 11・日本との交流強化について などに関するインタビュー記事だ。

 記事を読んでいて、31歳と若いがとてもしっかりと現実を見つめながらインタビューに答えていることが分かる記事内容だった。民進党内では蔡英文氏に続くと目されているのが頼氏。二人とも年齢が20歳も30歳も離れているが、民進党には若くて優秀な人材が多く集まってきているのだろうなあという印象も受けた。

◆この「東洋経済」の記事の中のインタビュー記事で、今回の台湾総統選と立法院選の選挙結果を詳しく分析している現実感覚には感心した。実は、今回の台湾総統選挙では、民進党蔡英文氏が約60%近い820万票を獲得しているのだが、同日に実施された台湾立法院選挙(国会議員)での比例選挙獲得数では民進党と国民党の票獲得数は僅差だ。民進党の比例での獲得票数は481万票しかなかった。一方の国民党は比例で472万票を獲得している。

 これは、台湾の人々のより多くが、「台湾を守り、主権を広げるのはどちらか」という選択では蔡英文氏に投票し、中台関係の現実におきていることを考慮して、比例では国民党に投票した、つまり、バランスをも考えて投票する人も多数にのぼったことを表している。この現実も踏まえながら、今後どのようなことが民進党や蔡英文総統に求められ、課題の実現をしていくのかということに関しても、林飛帆氏の受け答えはしっかりしていた印象の記事だった。

 


台湾総統選挙❸―「中国人」ではなく「台湾人」という意識の強まりが選挙結果の背景にあるように思う

2020-01-18 04:17:39 | 滞在記

 ―中国は見誤った? 彼女は微笑んだ—ジョージ・サンドワース(イギリスBBC北京特派員)の記事は次のようなものだった。

 「2期目を目指していた台湾の蔡総統が約820万票を獲得した。これは、並外れた得票数だ。過去最多の得票数は蔡総統の圧勝をもたらし、中国政府に対する大きな拒絶を示した。今回の総統選挙の争点に台中関係が大きく浮上したことで、低下していた蔡総統の運気を取り戻すことにつながった。そして、蔡総統の勝利には、明白な政治的皮肉が含まれている。

 中国政府の、大中華圏という厳格で権威主義的な展望は、その構想の可否を占う機会となった総統選で拒絶された。中国共産党が台湾に対する圧力を増大せず、香港における危機的状況への対応をよりひかえめにしていれば、中国政府を阻止しようとする蔡総統の当選の可能性はずっと低かったかもしれない。投票結果を受け、勝利は中国の習近平国家主席のおかげかと、私は蔡総統に尋ねた。彼女は微笑んだ。」(記事は以上)

  蔡英文氏は当選後初となるBBCのインタビューに応じる中で、自治権を有する台湾の主権をめぐり、交渉の可能性がないことは疑いがないと強調し、「我々には、自分たちが独立主権国家だと宣言する必要はない。(中略)我々はすでに独立主権国家であり、我々はこの国を中華民国、台湾と呼んでいる」と。また、台湾の主権を侵害するいかなる試み(中国政府による軍事行為)を警告し、「台湾を侵略するならば、中国は非常に大きな代償を払うだろう」と語った。そして、独立問題をより強硬に進めるべきだとの民進党内部の一部圧力に抵抗していると述べ、「現状維持が今も我々の方針だ。(中略) それが中国に対する非常に友好的な意思表示であると思う」とも語った。

 さらに、台湾は中国の一部であるとの考えを受け入れない台湾人の数は増加している最近の世論調査結果にも触れ、「我々は独自のアイデンティティ-を持っている。この国は私たちの国だ。我々には、成功した民主主義とかなり妥当な経済がある。中国から敬意を受けるに値する」と述べた。

 今回の台湾総統選挙の結果について、その要因についてさまざまな論評がされている。中国共産党機関紙・人民日報(電子版)は12日、"歴史の大勢は1回の選挙で変わらない」と題する論評を配信。「両岸(中台)の実力差はさらに拡大し、国際社会で"一つの中国"は日増しに強固になる。台湾独立の空間は存在しない。」と蔡政権に警告。論評では敗因も分析し、「米国による選挙介入」や「香港の反政府活動の悪用」などが影響したと主張する一方、台湾世論から反発を受けた中国の台湾政策(※昨年1月の習主席の「武力侵攻も中台統一の選択肢の一つだ)」などには言及しなかった。

  王毅外相(外交部長)は14日、国際社会が認めている"一つの中国"という原則は少しも変わっていないとして、台湾の総統選挙の結果を一蹴し、「両岸の統一は歴史的な必然」とし、このような流れに逆らうことに対し、「中国と台湾を分離させようとする人々は、1万年間の悪評を残すようになる」と強烈な言葉で警告をした。

 また、中国外交部の耿副報道局長は12日、蔡氏が当選したことに祝意を表明した日本・米国・英国などに対し厳正な抗議を行ったことが報道されていた。「台湾の選挙は中国の一地方の問題だ。"1つの中国"原則に違反しており、強烈な不満と断固反対を表明する」としたうえで、「台湾問題は中国の核心的利益だ。台湾の独立勢力に誤った信号を送らないように求める」とコメントした。日本は、茂木外相が11日夜に、「民主的な選挙の円滑な実施と蔡氏の再選に祝意を表する。台湾はわが国にとって、基本的な価値観を共有し、緊密な経済関係と人的往来を有する重要なパートナーであり、大切な友人だ」とする談話を出していた。

 台湾に12日までに声明文や談話、祝電などを寄せたのは、米国や日本や英国、ドイツ、カナダ、欧州連合(EU)のほか、台湾と国交を有する国家ではパラオ・ハイチ・パラグアイなど10か国あまり。他に欧州議会やフランス国民議会など。

 今回の台湾総統選挙の結果に結びついた要因として四つがあるように私には思われる。一つ目は、昨年の6月の200万人デモなど 現在も続いている香港での民主化要求がある。「今日の香港は明日の台湾」と台湾の人々の多くが意識し始め、今回の投票行動になったことの要因は大きい。台湾総統選挙について若者たちの間で広まった言葉がある。「亡国(ぼうこく)」だ。このままでは「国を亡くす」という危機感が広まったようだ。

 そして二つ目は、香港問題への中国政府の強硬な対応や習主席の「一国二制度」「台湾武力統一の選択肢も否定しない発言」への台湾の人々の恐怖感と危機感、反発も要因としては大きい。香港や台湾への対応をより控えめにしていれば、結果は違ったものになった可能性はある。

 三つ目は、「米中貿易戦争」にみられるように、ここ4年間の間に、アメリカの対中国政策が根本的に変化したことがあげられる。いままでの「いつか中国は民主化するだろう」という 甘かった「親中・融和的」なものからの完全脱却するという変化だ。「世界史的文明観、価値観の衝突」の本格化だとも言える。これは、米国の「共和党」「民主党」問わずの変化と言ってもよい。象徴的な出来事が、昨年の米国議会での「香港の民主化支持・人権法」のほぼ全会一致での決定であった。

 アメリカはこれまで台湾の民進党を正面から支援・応援したことはなかったが、今回の選挙では中国政府の抗議にもかかわらず民進党の政策を公然と支持する方針に大転換した。経済的にも軍事的にもの支持表明であった。これは、台湾の人々に安心感を与えたとも評されている。台湾とアメリカのこの1年間での急接近は台湾の国際社会における地位を大きく押し上げることともなってきている。

 四つ目は、実はこれが最も大きな要因かと思うのだが、「台湾の人々の"あなたは何人ですか?"」ということに関する意識の変化だ。これは4年に一度の台湾総統選挙を経るごとに、「自分は何人なのか。自分の国はどこなのか。」が問われ続けてきた結果変化してきたものだとも指摘されている。その意識世論調査によれば次のように変化してきている。

 ―「あなたは何人ですか?」 進む 台湾の人々の意識変化―台湾人意識 選挙が刺激

 上記の折れ線グラフは、「自分を何人とみなしているか?」という問いかけ関する台湾人の約25年間の意識変化を表している。選択肢は次の3つである。①台湾人②中国人③台湾人・中国人の両方。この意識調査は次のようになっている。

 1995年➡①台湾人25%、②中国人25%、③両方50% 2000年➡①台湾人45%、②中国人10%、③両方45%           

 2005年➡①台湾人52%、②中国人5%、  ③両方43% 2010年➡①台湾人55%、②中国人5%、  ③両方40%

   2015年➡①台湾人60%、②中国人3%、  ③両方37% 2019年➡①台湾人60%、②中国人2%、  ③両方38%

 「私は台湾人です」という人の数がここ25年間で25%から60%に変化していることがわかる。今回の台湾総統選挙での蔡英文氏・約60%、韓国瑜氏と宋氏など約40%という得票率とほぼ合致していることが読み取れる。今週号の「NEWS  WEEK(日本語版)」を昨日 丸善書店で立ち読みしていたら、この意識調査結果に基づいたような内容の記事があった。これについては次号のブログ記事で紹介したい。

 ―蔡政権になってから、訪台観光客数は激減してるという 半実半嘘のフェイクニュース(世論操作)― 

 台湾総統選挙の結果が蔡英文氏圧勝と出た後の、日本のテレビ局の街頭取材に対し、「蔡候補が勝ったことにより、台湾への観光客がさらに激減したりして経済が悪化が心配」と女性が語っていた。私も中国からの観光客がここ1~2年は中国政府の政策により半数になっていることを聞いていた。しかし、この台湾への外国からの観光客は急速に落ち込んだという報道は、半分は真実で半分は間違っていたことを1月16日付の「産経新聞」を見てよく分かった。(京都市内のイノダ珈琲店で読んだ)記事は次のようなものだった。

 見出しは「観光テコに存在感―訪台客数 昨年過去最高―再始動 蔡英文の台湾(下)」。台湾総統選挙戦の中で、「蔡英文が2016年に台湾総統に就任後、台湾への観光客は激減した」ということが盛んに国民党サイド・中国サイドから宣伝された。しかし、これは事実ではなくフェイクニュースの一つ(世論操作)だったが、多くの有権者はこれを信じさせられていた。私もそう思っていた。それでも、蔡候補が圧勝した。

 蔡政権発足前の2015年の訪台観光客数(1年間の)は1043万人。このうち4割にあたる418万人が中国(香港・マカオを除く)からの観光客数だった。だが、2016年の蔡政権発足を経て2年後、2018年の中国からの観光客数は269万人にまで急減した。実に6割減である。これは蔡政権締め付けのための中国政府の訪台旅行制限政策によるものだ。さらに、2018年8月、中国政府は北京や上海など47都市の国民に認めてきていた訪台個人旅行を禁止措置にした。これにより、蔡政権はさらに窮地に追い込まれるなるはずだった。

 しかし、そうはならなかった。2016年の訪台観光客は1068万人と微増し、2019年では1184万人と徐々にではあるが蔡政権発足後も増えてきているのである。それは、中国からの不足分を補って余りあるほどの日本・韓国・東南アジア・欧米など外国からの訪台観光客の激増があるからだ。国・地域別では、日本は長らく1位だった中国を上回りトップに。台湾人の外国旅行先も日本が1位と「相思相愛」の関係になっている。つまり、日本人にとっても台湾観光そのものが蔡政権支援にもつながっているという事実だ。

 台湾や香港の問題は、まさに「民主(民が主となる民主)」と「民主(民の主となる民主)」の世界史的な最前線だと思う。東アジア・東南アジア、さらに中央アジアや中東や東ヨーロッパ、そしてアフリカ諸国や南米アメリカに大きな影響力を政治・軍事・経済で広げっっある世界の現状。いわゆる中国スタンダードの世界的広がりだ。これに対しての昨年から今年にかけての香港や台湾での出来事だった。

 中国外相・王毅氏の言う「1万年の悪評」を受ける人々とは 果たしてどのような人々に向かうのか‥‥。50年を経ずして、その結果は分かってくるだろうかと思う。