5月5日~15日にかけて、日本人21人・韓国人9人が公安当局に一斉拘束されていたことが5月24日に明らかになった。拘束場所は1箇所ではなく、重慶、丹東(遼寧省)、銀川(寧夏回族自治区)、河北省、河南省、貴州省、山西省など全国各地の場所。直轄市の重慶(四川省)を除けばどちらかと言えば地方が多い。中国当局は、拘束した30人の具体的な所属団体は公表しておらず、日本政府関係者がキリスト教系団体だとだけ明らかにしている。中国では、外国人による布教活動が条例で禁じられていて、これに違反した可能性が指摘されている。日本の西村官房副長官は25日の記者会見で、「中国の国内法に違反した疑いで日本人21人が拘束されたことを確認した」と発表し、「この21人のうち、5人は国外退去処分を受け、すでに日本に帰国した」ことを明らかにした。
キリスト教系団体とはどの団体なのだろうか。「邪教」に指定されている「統一教会」や「エホバの証人」だろうか、それとも他の団体なのだろうか。中国外務省の陸報道局長は同日の記者会見で、事実関係の確認を避けながらも、「中国を訪れる外国人も、中国の法律・法規を順守すべきだ。違法な犯罪活動に従事してはならない」と強調した。(※一連のインターネット報道によれば、同じキリスト教系団体は、昨年10月にも広東省で日本人10人以上が拘束され、即・強制送還されているようだ。)
2014年11月に「反スパイ防止法」が制定されて以来、拘束されている日本人は増え、現在12人が長期にわたり拘束、あるいは逮捕に至ったりしている。今回の宗教活動と思われる法令違反では「反スパイ防止法」関連での嫌疑ではなく、名目上は「持っていたビザや外国人登録が不適切だったこと」が理由に挙げられているようだが、本当の理由は宗教活動のようだと言われている。
寧夏回族自治区の銀川には昨年の6月に行った。この街は、イスラム色をけっこう残している街だ。イスラム教徒も多いようだ。ここのムスリム(イスラム教徒)も豚肉は食べないが、飲酒は適当に飲むようで、ソフトイスラムといった印象の街だった。そんな場所で新興宗教の布教活動をしたのが事実であれば通報、拘束は容易に想像がつく。昨年に広東でも拘束された経過もあるのに、なぜ再び危険を犯してまで、布教活動をしたのか不明なことも多い事象だ。遼寧省にある丹東は、北朝鮮との国境にある街だ。(写真の右端)
エホバの証人の活動などは日本国内でもよく見かけるし、教義的にもそんなに過激なものではないし、まあ平和的といっていいと思う。(「エホバの証人」は、終末思想はあるが、むしろ道徳的な面での純粋さが際立つ宗教という面が強い。) しかし、中国においては「邪教」の一つとして取り扱われている。このような宗教事情の国で、もし布教活動を教団の信者にあたらせたとしたら、指導層も再考が必要だろう。日本と違って、日本と同じと思って行動すると、歩いていても何でも怖いで、中国は! まだ拘束が解かれていない日本人16人が強制送還だけで済むのか、今後どうなるかどうか予断は許さない。
現在の中国で、宗教に関して当局が最も神経をとがらせているは、中国西部「新疆ウイグル自治区」を中心とした「イスラム教徒」に対してだ。ここ5〜6年間のこの地区のイスラム教徒(1100万人以上)に対する政策だが。これは「文化大革命時以来の苛烈さ」を伴っているとも言われ、推定だが数十万以上が拘束・収容されているとも伝えられている。この収容者に対して、豚肉を食べる事や飲酒の強要が一部なされ、改宗をせまる実態もあると報じられてもいるが事実なのだろうか。
―「エホバの証人」を執拗に狩るロシア―
ロシアの厳しい「反過激派法」に違反したとして、宗教団体「エホバの証人」の信者26人以上が摘発を受け、このうち7人は、公判前勾留により身柄を拘束されていると、2018年5月30日付「NEWS WEEK」が伝えていた。
ロシア政府は2017年4月、「エホバの証人」を過激派組織に指定、以来、ロシアに住む信者推定17万5000人が、取り締まりの対象となっているという。信者の礼拝所は強制捜査を受けて閉鎖され、自宅でひっそりと礼拝をするようになっているという。にもかわらずロシア政府は、多数の信者を断続的に逮捕しているようだ。「反過激派法」に違反すると、10年前後の実刑判決を受ける可能性があるという。
中国における「邪教」指定、ロシアにおける「過激派組織」指定の「エホバの証人」。両国の政権にとって、怖いのは、「エホバの証人」信者のもつエホバ(神の使い)へ信仰の「その純粋性さ」というか「一途(いちず)さ」だろうか。
◆中国の歴史では、1850年代(「清朝時代」)を中心に起こった「太平天国の乱」が、宗教勢力の国家権力への反乱として有名である。この乱の指導者であった洪秀全は、キリスト教の熱烈な信者であり、「平等」を旗印として、多くの民衆の支持を得た。南京を首都とし、一時は「中国南部」を占領した。日本での宗教勢力の国家や政権への乱としては、戦国時代の「一向宗」(仏教)の一向一揆があるが、織田信長勢力などによって鎮圧された。