森人 もりと

森では人も生きものも ゆっくり流れる時間を生きています

襟巻

2016-03-09 | 日記
 「エリマキ」って言葉をあまり聞かなくなりました。
 今はマフラーとかストールなのでしょうか。でも、この雪の森には「襟巻」がピ
ッタリなのです。

 そのオバチャンは、冬になると狐の襟巻をしてやってきました。狐の顔はオバチ
ャンの太い首からダラリとぶら下がって、いつもこっちを見ていました。時には雪
を被っていることもあって、玄関を入ってから狐の頭をポンポン叩いて雪を落とし
ていました。それから、グニャと襟巻を掴み「かあさん いる?」と声をかけて、
中に入っていきました。

 暫くの間、家の中はオバチャンの大きな声が響きました。
 帰り際にはいつも「大人しくていい子だね 大きくなったら出世するよ」と言っ
てくれたのですが、結果は残念なものでした。

 立派なコートの後姿に狐の長い尻尾が垂れて、その先端だけが真っ白く、雪のよ
うにふわふわ揺れていました。
 今でもその時の狐の顔は鮮明に浮かんでくるのですが、オバチャンの顔は全く思
い出せません。
                            動(yurugi)