武産通信

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『西医学』西式健康法(8)

2019年09月06日 | Weblog
                                    西 勝造先生創刊の月刊誌『西医学』

 西 勝造先生を偲ぶ(3)         合気道本部師範部長 九段 藤平光一

 爾後、ハワイ全島にわたって、西会のお世話で合気道の普及に努め、ついに28年の暮れに、西会の肝入りでハワイ合気会が誕生し、爾来現在に至るも兄弟同様の関係にある。
 その後私は今までにハワイに3度行き、期間にして3年間滞在した。その間何度も、外遊中の西先生にお会いした。西先生は、ハワイ合気会がその度毎に盛大になっているのを喜ばれて、「よくやってくれてありがとう。あなたにしくじられると、私も一蓮托生ですからね。」と笑っておられたが、それほど、常に、私に対し、心を置かれていてくださったことに、今でも胸が熱くなる思いである。
 ハワイで、最初のうちはホテルにいたが、そのうち、ハワイ西会副会長、合気会副会長の影佐さんの離れにご厄介になることになった。影佐さんご一家は、あたかも私を家族の一員として面倒を見てくださった。1日何時間もの稽古にずいぶん汗をかいたが、ビタミンCが不足するから柿茶を飲みなさい。野菜に食塩をかけて食べなさい。温冷浴をやりなさいといった調子で、稽古から帰るともう柿茶が眼の前に準備されている。温冷浴も毎晩欠かさずおこなっているうちに、慣れてしまって、私自身そうしないと気持ちが悪くなった。気候の異なる土地で、しかも、朝から晩まで6尺の大男の人たちをも相手に稽古し、しかも一度も病気をしないで済んだことは、影佐さんを初め各島の西会の方々がお世話くださったおかげと、感謝している次第である。
 32年であったと思うが、ハワイで西先生にお会いしたときに、西先生の顔の赤らみが消えて青白くなっておられた。私が心配して聞くと、砒素の実験を身をもってやっておられたとのことであった。私は門外漢でよくわからいが、有毒なものは身体に使って、果たして、これを無害に処理できるのであろうかと心配になったが、先生のしておられることであるからと、質問を差し控えた。しかし、私が帰国してからお会いしても依然として、お顔の色が戻っていない。そのうち、先生はまたハワイへ行って来られたが、お顔の色ばかりでなく、何となくお疲れが見えた。そのうち、突然、訃音に接し、驚くと同時に、やはりそうだったかという感を消し得なかった。
 西先生の訃音はいろいろの話題や批判を生んだ。しかし私は、一切の批判を越えて、先生の死を尊敬する。人の身体を使って実験したのでなく、自らの身体をもってこれに当てておられる。患者を実験材料にして己の腕を磨こうなどというのとは、意気込みが違う。こと志と異なり、完成を見なかったが、己の信ずるところに従って、斃れて後やんだのである。あの世で笑みを浮かべておられるであろう。
 ただ切にお願いしたいことは、先生の一生の研究成果を、なお前進させ、且つ普及すべく、後継諸先生の勇猛心の奮起である。横道に入ることなく、ただ一筋に、西学理の研究と普及に当たっていただきたい。かくしてこそ初めて、西先生の斃れて後やむではなく、斃れてなおやまざる、不変の生命を得ることになるであろう。
 今、故西先生の面影をしのびつつ、私に寄せられた数々のご温情を思い出し、一筆認めた次第である。 (『西医学』昭和35年11月号)
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