武産通信

東山三十六峰 月を賞で 雪を楽しみ 花に酔う

布哇の対決

2024年08月26日 | Weblog
                         マウイ島の最高峰 ハレアカラ山頂

 布哇の対決

 昭和28年、西会布哇支部(西式健康法)の招聘により、藤平光一師範が派遣される。
 昭和36年、植芝盛平翁が布哇の地に降り立ち、ホノルル道場の道場開きが執り行われる。

 ここに一枚の写真がある。ホノルル道場を背景にした白黒のワイド写真(35㎝×11㎝)には、黒羽織袴の植芝盛平翁を中心に白装束の神主と黒スーツ姿の男性、その他は全員が道着姿で、総勢47人の集合写真である。そして、後列の左から6人目が若き日の Gayle Fillman 先生である。

 扨て、この布哇の地で盛平翁がボクサーに挑まれ、ボクシングのリングに上がったことをご存じだろうか。

 和服の老人は構えない。
 老人が静かに動いたときには、音も気配もなく、あっという間に、老人が男の右横側へ立っていた。
 いない、老人がいない。
 男にしてみれば、万に一つも逃さぬ、自信に満ちた突きであったが、老人はふわりと、事もなげに、これを躱していたのだ。
 そればかりではない。
 老人は、恐れ気もなく、男の正面へ身を移し、凝っと、男の顔を見まもった。
 男は、老人を睨みつめたまま、身動きができなくなってしまった。
 殺気というのではない。むしろ、威厳といったほうがよいであろう。矮躯な老人の五体が放つ気に、男は圧倒された。
 男は、苛立ち、焦った。
 男は、間合いをはかる余裕も失ったままに、じりじりと老人に迫り、いきなり拳を突き込んだ。
 またしても、手ごたえはなかった。
 そればかりか、飛鳥のごとく、男へ迫った老人が消えた。
 男は、老人が背後に身を寄せて立ったので、戦慄した。男は、心が折れた。
 静かな闘いだった。
 老人は、そのまま、立ちつくしている。

                   植芝先生は相手を倒さなかった。相手の後ろに立たれていた
                   のです。この出来事が私に合気道を目指そうと決心させた。 
                                 Ukiah Aikido Gayle Fillman

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