瀬崎祐の本棚

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山形詩人  73号  (2011/05)  山形

2011-08-02 21:26:47 | 「や行」で始まる詩誌
 「嘘日記」高橋英司。
 結婚の挨拶回りをした日のことや、日向ぼっこをしながら読書をしたりした日のことが書かれている。あるいは、初恋の人に似た新入社員がやって来たこと、など。あまりにも当たり前の感慨が、いかにも真面目な人が書くであろう書き方で書いてある。そして、日記に書かれた日々には書かれる意味がないことを、わざと書いている。

   (略)そんなこんなで一日が終わる。何と単調な。人生はこんなふうに日
   々を重ねてフィナーレを迎える

   □月□日
   何事もなし。とはいうものの、何事もない一日とはどんな一日か

 人は日記をなんにために付けるのだろうか。アンネ・フランクもフランツ・カフカも日記を書いた。まったくの他人である私(瀬崎)がそれを読んだが、もちろん彼女や彼は私に読ませるために日記を書いたわけではない。なにかから自分自身を守るために書いたのだろう。彼女や彼にとって、日記は一種の武器だったのだろう。
 しかしこの「嘘日記」は全くの他人に読ませることを目的として書かれている。それも取るに足らない一日の出来事ばかりが書かれている。書かれた内容ももちろん嘘ごとだが、なによりも書いている意識が嘘なのだ。その作者の意識の有り様が面白い。タイトルを「真実日記」とでもする方が、もっと嘘になるか。
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