瀬崎祐の本棚

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詩集「祝福の城」  冨上芳秀  (2011/07)  詩遊社

2011-08-01 19:54:22 | 詩集
 第7詩集。軽快な装幀の詩遊叢書の1冊で、29編を収める。
 どの作品も寓話仕立てとなっているのだが、毒味、苦味のある童話のようで、とにかく面白い。たとえば、巻頭におかれた「言葉」では、八百屋で青々とした言葉を買ってくる話である。私は言葉を漬け物にしてお茶漬けで食べるのだが、

   噛むたびに
   言葉は勝手なことを喋り始めたが
   私は無視してすっかり食べてしまった
   ほどよく発酵した言葉ほど
   おいしいものはない

 ここで”言葉”の代わりに”キュウリ”などを当てはめようとするのは愚かなことだ。日常生活の中に寓話は紛れ込んでいるのだから。その寓話に翻弄されるのが詩人なのだから。この巻頭の作品が詩集全体の成り立ちを宣言しているようだ。
 「うどん鉢の底の女」では、場末のさびしい食堂で素うどんを食べていると、「透明な出し汁の底の方に/ひとりの女がつるつると/うどんをすすっているのが見えた」のである。それは昔の恋人だったのだ。かっての日に、1本のうどんを二人で両端から食べたことがあったのだろう。

   それにしても長いうどんだ
   いつまでも距離が縮まらない
   と、思った瞬間
   なぜか無意識の裡に
   うどんを噛み切ってしまった
   一瞬、悲しそうな顔をして
   湯気にかき消されるように
   女の姿が消えた
                (最終部分)

 意味など考える必要はないだろう。この通りのことが起こっただけなのだ。起こったからこそ、作者は作品を書いたのだ。ん、逆か? いずれにしても、書かれてしまえば、もうそれだけで意味は生じてくるのだ。
 「さびしい玉」や「青いカンガルー」については、その面白さを詩誌発表時にすでに書いている。
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