瀬崎祐の本棚

http://blog.goo.ne.jp/tak4088

掌詩集「色を熾す」  岬多可子  (2015/1/1)  私家版

2016-01-02 14:58:13 | 詩集
 年賀に代えてとの文が添えられて届いた掌詩集。A6版で、きれいな紐での中綴じである。
 「 七草」から「 浄夜」までの10行の作品12編が収められている。これは1月から12月までの暦となっているのだろう。
 「 貝と蕾」では、わたしたちの三月には「砂の粒を吐く貝 蜜の味を抱く蕾、/可憐な 薄黄色の 息がある。」という。妖しく幻想的であり、また、どこか官能的であるのは貝も蕾も頑なに内側に秘めたものを持つからだろう。人の視線を遮ったところでじっと耐えているものを持っているからだろう。

   そうして 力なく閉じたまま
   そのうえを ゆるさずに薙いでいった
   火と水。 裂かれ 破られ、

 それでも、わたしたちの三月には「濡れて薄桃色の」貝や蕾があるというのだ。”わたしたち”は親しく生きることを共有した仲間であり、その作品世界から読み手はは静かに拒絶されているようだ。
 九月は「 赤い月」だ。要らないと言って手放すことをはやはり出来なかったようなのだ。他の作品と同じように、ここでも事態の説明はない。ただ直面している状況があり、揺れ動いている感情だけがある。

   流れは 速いのですから
   すぐに見えなくなり どうせすぐに忘れる、
   そう 見くびられていたのでしょうか。
   でも 潤んでいるのか 腫れているのか、
   月は 常ならぬ 赤。

 禍々しい事柄を想起させる月に照らされたこの世が拡がっているようだ。
 新年にふさわしい瀟洒な詩集に収められたうねる物語世界を、いたく刺激されながら読んだ。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 詩集「異界だったり現実だっ... | トップ | 詩集「午後の航行、その後の... »

コメントを投稿

詩集」カテゴリの最新記事