瀬崎祐の本棚

http://blog.goo.ne.jp/tak4088

詩集「更地」 水島美津江 (2023/12) 土曜美術社出版販売

2024-01-04 18:59:51 | 詩集
第6詩集。82頁に16編を収める。

4章に分かれているのだが1にはこれまでの来し方をふりかえっている作品が並ぶ。反体制闘争に身を投じ、どこにもたどり着かない恋があり、自ら命を絶った友がいた日々。

   恋人はいつも脛に傷を持っている男ばかりで
   恋が成就するはずもなく

   確かなものと言えるのは
    いつも見えない流域にあって
     寡黙な父の祈りだった 
                     (「父の祈り」より)

   何の予兆もなくやって来た渦に
   トリアージをも拒んで旅立ってしまった人よ

   安保闘争の
   火照った街角でさりげなく別れた人よ
                     (「喪失」より)

それらの日々が今の自分に繋がっていることをあらためて確認しているのだろう。これからの自分を模索するために。

Ⅱにはそんな作者をとりまく世界が詩われている。スマートフォンの中には戦争があり、パンデミックが人々を分断しているのだ。Ⅲでは友、あるいはかなわなかった想いの人の死が詩われている。

そしてⅣでは、ここまでの作品を書いてきた作者自身を詩っている。
「更地」。父の笑い声や母の愛に満ちていた我が家は今はない。まるで元からなかったもののようにされてしまっているのだ。それではそこで育った自分の日々にはどれ程の意味が残っているのかと問うているような感覚がある。それは寂寥としたものとして読む者にも伝わってくる。

   どれ程の年月が過ぎ去っていったのだろうか
    わたしは忘れられた老人になって
    夕映えの更地を眺めて
   (略)
   ひかりと風に晒されて
    剥がされた漆黒の土地に
   今も さら さらと歳月だけが積もっていく

しかし、積もっていくのは歳月だけではなく、そこにはその歳月を生きた作者自身も積もっている。見かけは更地になっても、そこに積もった歳月とともに作者の人生も確かにあったのだ。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 評論集「谷川俊太郎全《詩集... | トップ | 詩誌「妃」 25号 (2023/12)... »

コメントを投稿

詩集」カテゴリの最新記事