瀬崎祐の本棚

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詩誌「潮流詩派」 269号  (2022/04)  東京

2022-04-15 20:13:40 | 「た行」で始まる詩誌
67年間を季刊で発行されている凄い詩誌。故・村田正夫の意志を継いで、今は麻生直子が編集発行人となっている。79頁。

特集1は「とら」で、それにちなんだ15人の作品が並ぶ。
「橋の三人」水島英己。古希をすぎた話者は、歩道橋の上からの車列を眺め、自分はまだどこかへ行くことができるのだろうかと自問しているようだ。それがかないそうにもないことの自覚は、鬱屈した思いとしてあるようだ。だから、中国で修行を積んだ三人の老人たちの逸話に惹かれている。彗遠は、友との語らいに自らに課した禁を失念させるほどに熱中できたのだ。そんなものが今の自分に残っているだろうか、との自問があるのだろう。

   心中の虎はとっくに死んでしまったが
   「臆病な自尊心」や「尊大な羞恥心」がまだ疼くこともある
   そんなとき、机上の写真立ての中の
   蕭白筆の「虎渓三笑図屏風」の三人の笑いに
   しばらく耳を傾ける

私(瀬崎)自身も身につまされる思いが伝わってくる。

「それなりの、マスコット」長瀬一夫は特集からは離れた作品。近くにチェーンのドラッグストアができたりしながらも店を続けている古い薬局が描かれている。店の入り口のシャッターの外には「トイレットペーパーが行儀よく並」べられているのだ。どんどん変化していく街の賑わいからは取りのこされそうな店なのだろうが、それでも毎朝、トイレットペーパーは並べられる。

    雨の日は、ちょっとだけ入り口に寄せ、
   トイレットペーパーは、
   マスコットのように、行儀よく並んでいる。

飄々とした詩いぶりの作品で、それにふさわしいどこか飄々とした薬局の店構えが浮かんでくる。話者も薬が必要になったときはこちらの薬局で買っているのだろう。

特集の2は「追悼・高良留美子」で、生前の写真、麻生直子選の作品抄が載っている。
長く親交のあった麻生の追悼文「高良留美子さんを想う」はその人柄や業績をよく伝えてくれるものだった。日本詩人クラブ主宰でおこなわれたタゴール生誕百年祭を記念したインド旅行の際のエピソードも記されていた。タゴールを我が国に紹介したのが高良留美子氏の母・高良とみ氏であることを、私(瀬崎)はその旅行に参加するまで知らなかった。とても学ぶことの多かった旅であったことを懐かしく思いだした。
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