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詩集「かつて孤独だったかは知らない」  和田まさ子  (2016/09)  思潮社

2016-10-13 22:15:29 | 詩集
 第3詩集。109頁に半年間のロンドン滞在中に書かれた27編を収める。カバー、および詩集の中の六葉の写真は作者が撮ったもの。
「挨拶」では、「ここでもまた/出口から始まって/入口に至る旅をする」と書き、「雨になる」では、「もっと泣くために/つよく一人を思うために/アールズコートという街に来た/ここで/新しい名前で呼ばれたい」と書く。
 異国の地に在っての作品であるためか、これまでの作者の作品に比べて、よい意味で神経が緊張しているように感じられる。そのために言葉に対する意識も尖っており、柔らかさは削ぎ落とされ、読む者に突き刺さってくるような詩行に溢れている。
「乾杯」ではパブでの情景が描かれる。乾杯をすれば「それぞれの年月が交差する」のだ。そして、そこから始まる関係があるのだ。

   たとえ雨に打たれても
   走りつづけて息があらくなっても
   チアーズ
   酸っぱいケチャップとフライドポテト
   たくさん食べよう
   夜の芯が熱くなってきた

旅行者、あるいは一時滞在者として異国の地に在ると、周りの風景、事物からの拒否感は否応なしにあるだろう。それが、その地に在る自分をもう一度見つめ直させ、確かめさせようとする。そのために意識は常に自分の内側の深いところへ下りていくようだ。
 「夜」も、そうして異国の風景の中にいる自分を視ている。

   ほんとうはね
   と人はいいたがって
   でも
   ほんとうではないのだ
   そのことを知っていても
   ほんとうのことだと信じたふりをして
   うわの空で聞いているわたしは
   わるい人だと
   通りでだれかが叫んでいる

 この詩集で描かれる異国は、単なる観光の地などではなく、自分の生を問い直す場としての意味だけを担っている。
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