瀬崎祐の本棚

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詩集「コールドスリープ」  小川三郎  (2010/09)  思潮社

2010-11-03 20:40:19 | 詩集
 B6版をわずかに大きくした版型の104頁に、18編が収められている。
 言葉はどこまでも具体的で、描かれた事物の輪郭や、交わされる会話のどこにも曖昧な部分はない。それなのに、あらわれる風景はどこか奇妙で、世の中の秩序が捻れているようなのだ。サルバドール・ダリの絵を思い浮かべてしまう。空はあくまでも澄み切り、人々は屈託なく笑っているのに、季節は乾ききっているのだ。むろん、その行為も乾ききっている。
 「川にテレビを捨てに行く。/昨日は子供を捨てに行った」とはじまる「顔」は、

   子供はもうずいぶん捨てたはずなのに
   また増えている。
   死んでしまった子もいる。
   そうしたら匂いになって残り
   ある段階を過ぎたら、見えなくなり
   音もなく、一艘の船が近づいてきて
   子供をここから引きあげていく。
 
 ほとんどの作品は、物語をうねうねとたどっている。そして、作者が必死になって物語を明確に記述しようとすればするほど、事物の形は歪んでくるし、会話は成り立たなくなってくる。
 しかし、実はそんなことは先刻承知で、世界の約束ごとを面白がってかき回しているのかもしれない。たしかにかき回されて新しく現出した世界は、とても魅力的なのだ。
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