瀬崎祐の本棚

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詩集「草数歩」  赤木三郎  (2013/09)  書肆夢ゝ

2013-10-04 17:13:59 | 詩集
 77頁に21編を収める。
 作品はさまざまな形を要求したようで、なかには1行や2行の箴言を思わせる作品もある。たとえば巻頭の「(蛙の光)」の全文は次の通りである。

   はじめに安息! 蛙は蛇の内部を通過 蛇は蛙の光に満ちた

 「風は日ぐれて逆行写真となっている」は、”あなた”に語りかける”あたし”のモノローグがうねっている作品。あたしはたぬきのゆめをみてかなしかったことや、河原であなたがさびしい魚にみえたことを語る。

   ただ わらいあう だけ
   それでなければ だまっている
   あたしがあなたをみつけた

   死なないでね 卑怯でもいいから生きていてね こんな午前にも 午後にも

 「日ぐれて」夢から覚めたあたしは「めをひらく」のだが、時の移ろいが実体のない物のように漂っている。生きていることを必死に励ましている相手は、おそらくは話者であるあたし自身なのだろう。
 「草数歩」でも、聞き手が不在であるかのような語りがくり広げられる。興業を終え小屋をとりはらって旅立つ芝居の一行について語られているのだが、今は終わってしまった芝居など果たして本当にあったのかどうかもあやふやだ。思い出されるのは「とつぜんの日ざしのなかの 横なぐりのすこしの驟雨/(のような客たちのあふれる涙)」だったりするのだ。

   思いだす 忘れはてていた歌あれら舞台の 意味と 場所と あれらの日々にたちつくしたわたし を
   ふいに
   つよい草の匂いにつつまれた 一座の馬車は 草原をどこまでいったか?

 どの作品も、今語ったことを次には裏切るような、不思議な緊張感にあふれている。
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