瀬崎祐の本棚

http://blog.goo.ne.jp/tak4088

詩集「サスペンス」 佐相憲一 (2022/06) アオサギ

2022-07-05 18:19:11 | 詩集
第10詩集。119頁に24編を収める。

「革命の塩」。重太郎という名の人物の必ずしも順風ではない足跡をたどっている。日本海に面した浜で塩を作り、横浜へ出奔して懸命に生きていくその人物は、話者の曾祖父とのこと。話者は「きみが興奮した鉄道ルート」をたどり、砂丘に座る重太郎を見つける。

   きみから始まる愛憎と別れの果てに
   出現するどの親族からもはぐれたこの身
   その血流にもきみを通じて革命の心を感じ
   くらくざわめく内海の負の連鎖を断ち切って
   きみから始まるすべてを祝福するこのぼくが
   後ろに立っているのが見えないか

自分のルーツをたどり、その要となる人物に光を当てている。重太郎が「ぼくの方を振り返る」ことは、すなわち自分がこれからの人生を見つめる視線に重なるのだろう。作者にとってこの作品を書いたことは大変に大きな意味があったのではないだろうか。

「道」。通勤途中の道の真ん中にはいろいろな虫が憩っている。「無慈悲な人類どもにあっけなく/踏みつぶされ轢き殺されないように」話者は草むらへ追いやり逃がしてやる。しかし人類は世界のあちらこちらで死んでいる。虫の命を助けてやりながら、話者はホモサピエンスの愚かな行動に思いを馳せている。

   蝶の幼虫よ、バッタよ、ツユムシよ、カマキリよ
   ぼくのまごころを信じないならそれでいい
   それでもぼくは道の真ん中からきみたちを
   草むらへ草むらへ、地球の自然へ

最終連で「冬眠する体にはなっていない」話者は、「あえて人類の道の真ん中で粘ろうと思う」という。いささかの諦観もあるものの、皮肉と共にそこに前向きな闘志も感じられる。

「あとがき」に、この詩集のエンディング曲についての楽しい一文が書かれている。ピンク・フロイドだったら、私(瀬崎)はやはり「アトム・ハート・マザー」ですね。あの曲のエンディングといったら、それはもう・・・。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 詩集「よしろう、かつき、な... | トップ | 詩誌「ガーネット」  97号... »

コメントを投稿

詩集」カテゴリの最新記事