瀬崎祐の本棚

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詩集「しまいこんだ岸辺」  外村京子  (2011/12)  本田企画

2011-12-15 19:21:49 | 詩集
 やや小型の正方形に近い判型、81頁の第2詩集。みえのふみあきの栞が付く。
 かってアメリカで生活していた著者が、2001年の同時多発テロから”報復のような戦争”に至ったことを契機に描いたという作品17編を収めている。
 有色人種であり、英語のネイティブ・スピーカーでもない著者と幼い娘は、アメリカ社会ではマイノリティの存在だったのだろう。直面したさまざまな状況が語られるのだが、それに対する著者の思いの表出はきっぱりと削ぎ落とされている。しかし、確実に伝わってくるものがある。たとえば、「それから」という作品で、学校から戻った娘が尋ねる。

   なしょなりてぃ ってなあにお母さん
   国籍、かな
   ふぅん それがちがうと遊んでもらえないのね

 表題作に使われている”岸辺”は、おそらく太平洋を挟んだ二つの国の境をあらわしているのだろう。自分の内側にある境界を取り払ってしまえれば気持ちは楽になるのだろうが、現実世界は向こう岸とは隔てられた地点にいることを否応なく意識させてくる。

   ときどき
   いっしょくたに放り込まれた
   キボウやゼツボウも広げて
   干そうと思うのだが
   しまいこんだ岸辺には
   陽の差す時間がない
                       (「しまいこんだ岸辺」最終連)

 そのころから10年が経ち、今は(たぶん)日本で生活している著者と娘にとって、”岸辺”はどのような風景となって残っているのだろうか。
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