瀬崎祐の本棚

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詩集「金輪際のバラッド」  石原武  (2011/11)  土曜美術社出版販売

2011-12-13 23:52:04 | 詩集
 齢81歳にしての詩集である。あとがきでは”老耄の限り”と記しているが、一読して作品の力強さに驚いた。自分を突き放したこれだけの冷徹な目を持ち続けることが出来るものなのか、と感嘆する。
 たとえば「されこうべ」。ベトナムから持ちかえられた六つのされこうべが、アメリカ陸軍医学センターの引き出しの中で忘れられていた、ということを作者は何かで知ったのであろう。ソネット形式の作品の終わり2連は、

   六つの〈されこうべ〉だけが税関の目に留まり
   医学センターの引き出しに幽閉された
   懐かしいメコン川を遠く離れて

   不運な魂魄よ
   いま 雨期の空は重いが
   俺と女は夕餉の肉を豪勢に焼いているのに

 この最終行の迫力はどうだろう。自己の内側に閉じこもらない意識が外の世界との交歓を生々しくおこなっている。ここには世界と対峙している気持ちがある。
 その一方で、この世に在ることへの諦観と未練もしっかりと持っている。「夜のキャッチボール」は、幼少時からの習いになっている「キャッチボールの/ひとりあそび」を題材にしている。跳ね返ってくるボールを浮けとめようとするのだが、ボールは手をすり抜けるようになってきた。その最終部分、

   それでもボールが恋しい
   女の孤独を受けとめて
   そっと返す
   夜のキャッチボール

   いつかボールは逸れて
   あの世の壁を叩く
   きっと

 老いたことへの甘えなどどこにもないのだが、それでも老いというものが孕んでいる哀しみのようなものをあらわしていて、余韻が残る。印象的だ。
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