瀬崎祐の本棚

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詩集「小倉風体抄」  倉田良成  (2011/01)  ミッドナイト・プレス

2011-02-12 12:10:27 | 詩集
 第13詩集。小倉百人一首の歌から着想を得た35篇の散文詩を収めている。
 どの作品も独白体となっており、さまざまな状況にいる発話者が物語世界をつくりあげている。たとえば巻頭の「とまをあらみ」は、ホームレス者のブルー・シートの小屋が若者たちに襲撃され炎上させられる話。2番目の「龍田の川の」は、恋人との彷徨いのような逢瀬が描かれている。
「むかしは物を」は藤原敦忠の恋歌に因っている。これまでは思うがままの恋をしてきた女性が、初めて自分から惚れてしまった男との顛末を語っている。男の愛を得るためにわたしはわざと不貞をはたらく。すると、

                    それから「不正」が行われ
   るたびごとに、やけどをしたり、肉を抉ったり、骨が砕けた
   りして、あのひとの軀は少しずつ闕(か)けてゆく。けれどあのひ
   とがわたしの身体に与える悦びはいよいよ深く、また夕日の
   ような暗い輝きをいや増しに増してゆくのを止めることがで
   きない。あのひとが闕けてゆくにしたがって、こんなに恐ろ
   しいまでにわたしはあのひとのことを愛していたのだという
   思いが大きくなる。

 こうして35のまったく異なる世界が形作られている。これだけの多様な虚構世界を形作る創造力には感嘆する。作者はしばしの間、それぞれの35の世界の住人となり、また現実世界に戻ってきたわけだ。しかし、このように仮託された人物の世界を求めているからには、今のここではない処へ、今のこの自分ではないものへと、いつの日にか、作者の精神はどこかへ行ったままになってしまうのだろうか?
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