瀬崎祐の本棚

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詩集「アレクサンドロス王とイチジク」 岡隆夫 (2022/07) 砂子屋書房

2022-08-03 22:53:41 | 詩集
第23詩集。95頁に22編を収める。

プロローグとして「知っていて 知らなかった」が置かれている。作者は自身のぶどう園でマスカット・オブ・アレキサンドリアを四十年作り続けていたのだが、

   ところがアレクサンドロス王がエジプトを領有し
   肥沃なデルタにアレクサンドリア港を建設し
   マスカット・オブ・アレクサンドリアを増殖
   エジプトイチジクとともに世界に広めた
   まったくもって知らなかった 知らなかった

このことを知った素朴な驚き、そして作者が愛したそれらの果実を広めてくれたアレクサンドロス大王に対する感謝の念、それらがこの詩集の作品の基盤になったのだろう。

作者の前詩集は中国地方吉備平野に展開された古墳文化に材をとったものだった。今回のアレクサンドロス大王の足跡をたどる本詩集の作品も叙事詩の体裁を取っている。その際には話者の位置づけが大きな意味を持つ。あとがきには、話者の一人は「古代から現代に至る時系列的視野を持つ」旅人、とある。この設定が自在に物語世界を展開することを成功させている。

アレクサンドロス大王は、紀元前三百年頃からペルシャ、エジプト、インドと遠征を続け、未曾有の大帝国を築きヘレニズム文化を発展させたのだが、そこに作者は自由な物語りを展開している。作者は塩野七生などの文献に当たり、史実を丹念に調べている。その史実にしたがってアレクサンドロス大王、その従者であるエウメネスの生涯を追っているのだが、そこにさまざまな植物を絡ませている。そこがぶどう園を管理し、稲作り麦作りに長年いそしんだ作者の面目が躍如する点である。

   イタリアは東南端ブリンディジ港
   ピラミッド形に山積みされた
   紫イチジクに魅せられる
   イオニア海を東に渡るとオリンピアの山が見え
   旅人は麓の市場でギリシャの蜜果を目にし 安堵する
               (「イチジクの巨木たち」)

「三十三歳を一月後にひかえ」てアレクサンドロス王は崩御する。その生涯を追ってきた詩集の最後では、作者は従者エウメネスに憑依したかのようだ。そして旅人と共に去って行く。作者独特の観点の物語を駆使しての一大叙事詩の詩集であった。
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