瀬崎祐の本棚

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詩集「レジリエンス」 南原充士 (2022/07) 思潮社

2022-07-19 22:15:51 | 詩集
これまでにも言葉遊びの作品を集めた詩集や、時間について論じた作品を集めた詩集を作っている作者の第15詩集。109頁に39編を収める。
物語性の強い作品もあれば、並んだ美術館の絵画作品に想を得たと思われる作品もある。

「復元」は、「ゆれる川面を見ると/体の中の水が揺れる」と、実際の大地にある水と体内の細胞が含んでいる水を重ね合わせて感じ取っている作品。

   空が近づくとひとは遠ざかり
   高地から海は間近に迫る

      すべては止まれ
      散らばるスティル写真

         拾った化石に閉じ込められた水滴
         人類のクロニカルを跳び越える極氷

視点が広く世界を眺めるものとなっており、そこに身体感覚が上手く絡んでいた。

詩集タイトルのレジリエンスという言葉は、復元力、回復力という意から自発的治癒力といった意味合いでも使われるようだ。詩集カバーには柱の上に乗ったバランストイが描かれている。あとがきによれば、「読者が落ち込んだ時に気持ちを明るくしてくれる」詩集を目指していて、「エンターテイメントとして」楽しんで欲しいとのこと。

「ある日」は散文詩。「心の影がすっと外部へ延びて」いったので、話者はそれを引き込もうとするのだが手におえないのだ。すると、かたわらに何者かが立ち止まりこちらを見ているのである。

   時間さえ長物に溶け込むかと感じられるほど長い時間がたったと
   思えた。かたわらの者はあまりにじっと見続けるのでついそちら
   に目をやったとたんにすっとその者(たぶん女のようだったが)
   が駆け寄り長物に身を投げた。次の瞬間その者の姿は消え 続い
   て長物がしゅっとかすかな音とともに引っ込んだ。

さあ、何者かに憑依されたかもしれない「心の影」はこれからどうなるのだろうか? 怪異譚の体裁を取りながら、全体が大きな暗喩になっている作品だった。

さまざまなスタイルの作品が並んでいるのだが、それはとりもなおさず、作者自身をさまざまな角度から検証し直していることでもあるだろう。こんな作品を書いてしまう自分っていったい何者なんだ?と、作者自身が楽しんでいるように思えてくる詩集だった。
コメント
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