瀬崎祐の本棚

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詩集「吉備王国盛衰の賦」 岡隆夫 (2020/09) 砂子屋書房

2021-08-09 20:26:22 | 詩集
第22詩集。100頁に4つの章に分けて19編の作品を収めている。

近年の作者の詩集は1冊毎に主題を軸に組まれている。その主題をいろいろな角度から眺め、そこに生じるいろいろな視点を絡ませて、詩集全体として主題に近づこうとしている。
今回の主題はタイトル通りに吉備王国の歴史である。岡山に住む者にとっては吉備路に点在する無数の古墳はなじみ深いものである。

この詩集の主人公とでも言うべきサキは卑弥呼の死んだ年に産まれ、巫女としての霊力を有して、時空を越えてこの詩集の中で活躍している。
たとえば「土師氏の権勢」では、サキは734年の大地震を見て、2018年の真備の大洪水も同じだと思ったりする。史実を調べ上げた叙事詩の体裁をとりながら、作者は時に自身の思いをサキの姿を借りて直接書き込んでいる。こういったところがこの詩集の独得な部分で、作者らしいところだと思える。

次の作品、「赤馬土偶幻想」では、サキの思いは5世紀の日本を離れ、時もさかのぼって、前三世紀の中国・西安に飛び、さらにシルクロードを辿ってロンドンに至っている。そして19世紀の南アフリカの植民地化の戦争にまで幻想は広がっていく。
有り体に言って、作品はどこまで広がるのだと戸惑わせるような、破綻に近いものを孕んでいる。しかし詩が単なる歴史書ではないところは、こういったところにあるのだとも思わせる。

第三章で吉備の国があらわれる。(ちょっと判らなかったのは、冒頭ではサキは「壱岐対馬はいずはらの色街生まれ」となっていたのだが、ここでは真備の二万が「古里」となっている。なにか私(瀬崎)が勘違いしているのかもしれないのだが。)
真備の古墳群の資料から作者が展開する吉備王国の記述には圧倒されるものがある。作者の熱量が半端ではない。さらにその真備を絶賛した阿藤伯海まで登場してくる。伯海の生地は淺口市六条院東ということなので、作者の住まいのすぐ近くということになるわけだ。こうしてなりふりかまわずに登場してくる人物たちが主題を盛り上げていく。

そして大団円とでも言うべき第四章となる。時空を越える存在であるサキは、五世紀に作られた吉備の巨大古墳群を見て、江戸時代、そして明治時代の真備の大洪水を見る。さらに2018年7月の集中豪雨による真備の洪水にまで記述はすすむ。

このように、この詩集は詳細な資料を丹念に調べあげたところから始まり、作者の縦横無尽な好奇心、想像力が単なる叙事詩的なものを越えて作品世界を広げていた。
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