瀬崎祐の本棚

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詩誌「孔雀船」 98号 (2021/07) 東京

2021-08-03 17:52:29 | 「か行」で始まる詩誌
毎号「孔雀船美術館」としてエッチング作品を載せている岩佐なをだが、彼のペン画「海辺のグラス」が扉にある。今回はエッチングの構想もこんな風に練るのだろうかという感じの作品で、しばし眺め入った。

「孔雀時計」藤井雅人。
時空を越える存在であるような孔雀が置時計のうえにとまり、その羽根の鮮やかな色が時を彩っていく。

   終(つい)の時 葬(とむら)いの火は部屋にみちて
   戸口から数知れぬ熱い舌をのぞかせる
   狭い室に秘められたおもいのあざとさを
   あばき出しながら清めるために
   赤い火の反映が 金色の面(おもて)にゆらぐ時
   時計は針の動きを止める

すでに人の目には見えない孔雀は柱の頂で白い時をまわす。運命を司っているような孔雀の存在を、日々の営みに作者は感じているのだろう。やがて孔雀は「月を 陽を 銀河をくぐりぬけ」「宇宙の果てをさして」還っていくのである。

「マーマレードジャムの不出来」福間明子。
マーマレードジャムを煮ているのだが、一向に仕上がらないのである。しかも失敗しそうなのだ。

   実に不愉快なねじれ現象が起きて
   ジャムにてこずる自分を笑おう
   レシピどおりにとりかかろうではないか
   全くお話にならない不出来なんて
   気休めはいけない不出来につながる

規則どおりにおこなって失敗したくないと頑張る話者を、一歩引いたところから見て記述している作者がいる。この微妙な隙間が作品になっている。最終部分は、「今夜は十三夜/期待が持てそうな気がしてきた」。果たして月齢は話者に幸運をもたらしてくれただろうか。

いつも愛読しているのは望月苑巳の連載エッセイ「眠れぬ夜の百歌仙夢語り」。いたるところに散りばめられた自虐ネタに苦笑しながら、真面目な内容も楽しんでいる。今回は塚本邦雄「定家百首~良夜爛漫」が取り上げられていた。なるほど、塚本はこんな風に定家を評するのか、と思いながら読んだ。ちなみに私の書架には塚本邦雄「秀吟百趣 短歌・俳句 総合鑑賞」がある。最後に紹介されていたドキュメンタリー映画「夜明け前の歌~消された沖縄の障害者」は気になっていたものだった。機会があれば私も直視してみたい。
コメント (1)
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