瀬崎祐の本棚

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ユルトラ・バルズ  28号  (2017/08)  東京

2017-09-17 15:58:00 | 「や行」で始まる詩誌
今号から細田傳造が同人として加わり、小特集「江戸戯作」として江戸情緒を利用した6編を載せている。その中から「此れから」。
 べらんめえ口調のような勢いで、奉行所や六道辻堂のしがらみをすべて断ち切ろうとしている。そして船に乗るのである。船はいつでも未知の場所をめざすものなのだ。だから「船はブラジルという星を目指して/進んでいる」のだ。すべては”此れから”なのだ。

   ブラジルに着いたら
   星いちめんに
   水蒸気の花を植えてやる
   夢栽培なんて
   かたはらいたい

 これまでの細田の作品とはやや趣を異にしているが、基調のすっとぼけた軽味とそれを支える居直ってしまった強味は健在である。

 「女優志願」阿部日奈子。
 アメリカ留学から戻った末っ子の娘が女優になろうとしてしまった、という父親の愚痴を、一人称で書き連ねている。実際に、偶然に隣に座った男に聞かされているような気になってくる巧みさがあって、大変に面白かった。

 「真昼の変遷」中本道代。昨年秋に亡くなった前衛芸術家の中西夏之氏に捧げられている。
 行分け詩で、5文字下げで書かれた連が一つおきに置かれている。中西氏の作品から放射されるものと、それを受けて話者の中に生じるものが、交互に織り出されているようだ。まるで舞踏のように光がうつろい、そのうつろいの時間ははっきりとそこにあるのに幻を視ているかのようである。好きな2行は「まぶしい夢をみていた?/いいえ 夢など少しも」。想いの幅を規定するような具体的なものは何もなく、ただ観念だけがやわらかく広がっている。そして、

   ごくわずかに時間がずれ
   もうどうしても還れぬほど遠くずれて
   息のかたまりを吐き出した

コメント
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