瀬崎祐の本棚

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夜とぼくとベンジャミン  高階紀一  (2017/07)  澪標

2017-09-09 10:53:44 | 詩集
 第17詩集(選詩集2冊をふくむ)。122頁に30編を収める。
 あとがきで作者も書いているように、本詩集に収められた作品は内容や形式が非常に多彩である。

 Ⅲ「わたしを流さないで」の章には、街や商業印刷物でみかけた広告文章を並べた作品やインターネットのSNSへの書き込みを並べたと思われる作品もある。またⅣ「歌のアルバム」ではそれぞれ「流行歌の歌詞の一部を月毎の詩に埋め込んで」いる。埋め込まれた歌はたとえば、かぐや姫の「神田川」であったり殿様キングスの「なみだの操」であったりする。何かの情動の際に作者の脳裏にふっと浮かぶ歌詞なのかと思うと、作品を読むのが楽しくもなってくる。

   あなたの決してお邪魔はしないから
   なんて言いながら
   カラスは今日も来て
   ぼくの頭に止まっている
                   (「2月」冒頭)

 そんな自由な形式の乱舞もあって、この詩集はどこか肩の力が抜けた親しみやすい感じになっている。
 これまでの作者の作品に通じる形式のものはⅡ「夜とぼくとベンジャミン」に収められている。作品「清水さん」は、私(瀬崎)が大好きな作品「千鶴さんの脚」をちょっと想い起こさせる。話者は「押し倒し」た清水さんを残して戦場へ行くのだが、帰ってくると「清水さんはまだ家にいて/おかえりなさい と/こどもを見せる」のである。こどもといっしょに堤防へ行き土手にすわる。

   戦場にも川はあったが
   こんなにきれいではなかったな
   茶色く濁って
   ときどきヒトが浮いていたりして
   きれいね
   ふりむくと
   うしろに清水さんがいた

 ここには奇妙な物語性に支えられた郷愁のようなものがある。何年間も戦場へ行っていた話者には、思いがけなく待っていてくれた帰るべき場所があったのだ。少し寂しいような感じの中に温かいものが混じってきている。

コメント
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