瀬崎祐の本棚

http://blog.goo.ne.jp/tak4088

白亜紀  143号  (2015/04)  茨城

2015-04-15 21:50:52 | 「は行」で始まる詩誌
 「新年」鈴木有美子。
どこかへ行かなければならないのに渋滞の列で動けないようなのだ。強い風が吹き、海底火山は噴火し、上層圏の羊たちも不穏だ。苛立ちと、それでもくじけない決意が”新年”には必要なのだろう。緊張感がどこまでも持続している。

   新年の扉を開くように
   僕は
   粉々になった
   僕の欠片を取り戻すのだ

   きれぎれのこの世界のどこかに待たれている僕がいる

「夜の痕」岡野絵里子。
 「記憶の中で繰り返し 繰り返し私たちは傾く」とはじまる6連の散文詩。おそらくは大地が揺れ、大地が柔らかく歪み、日常がどこかへ沈み込もうとした記憶なのだろう。うわべに見えるものは落ちついても、ふたたび傾く夜があることを知ってしまったという”痕”が残っているのだろう。どこにも逃げ場のない”痕”なのだろう。

   それらは彼方から来た者の痕跡だった 食卓
   のスープが耳の中で濃くなること 人が壁の
   内側で 眼の奥を昏くすることも

 「雨を待ちながら」網谷厚子。
 ぴっしりと20字×40行で書かれた散文詩。重い荷物を担いであなたがやってくる。あなたは「丸い魂(マブイ)」を届けにきたのであり、また暗闇に消えていく。とても慕っているようなあなたなのだが、そんなあなたとは他人のようにすれ違っていくだけのようだ。何か切羽詰まった物語を感じる作品。残された赤子のような魂をわたしはあやしていて、

   あなたが 月を連れ去って行ったように 雲
   が厚くなり 闇が濃くなっていた 闇の中に
    わたしは 浮かんでいる ただ 天から落
   ちてくる 冷たい 雨を待ちながら
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする