瀬崎祐の本棚

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ガニメデ  50号  (2010/12)  東京

2011-02-02 00:13:49 | 「か行」で始まる詩誌
 「積石塚」吉田博哉。
 山道で古い積石塚(ケルン)に出会う。その積石のすき間からは村が見え、そこに暮らす人たちの姿も見えたのだ。
 
   宿を乞いに近づけば どの家の庭前にも魔除
   けのような石塚がある こわれた垣根の向う
   から老婆が手招いた 〈はじめかおわりか 
   おまえさんもつんでみなさるかの〉 一個の石
   が手渡された

 石塚に石を積むという行為は、村に受け入れられるための儀式であるのだろう。斉藤恵子の詩「無月」でも、一夜の宿をたのむ村の人に、”舞わしんさるか”と訊ねられていた。舞わさなければ村には受け入れてもらえないのだ。土着の共同体と、旅人であるあいだはそこから疎外されている者がここにはいる。
 この吉田の作品が印象的なのは、この後の展開が素晴らしいことによる。集まってくる村人たちは、

   老若男女のことごとくが盲目で 借住まいの
   かれら どの顔も 日日を生むわたしの父と
   母にそっくりだ 
   何ということだろう ただこのことのためだ
   けに自分はここへやって来たのだ

 わたしはこうして、この村がわたしの出自そのものだったことを知ってしまうのだ。
 最終連で、霧が晴れて、これまでの出来事が幻想であったことが明かされているが、これは不要だったのではないだろうか。何故、戻ってくる必要があったのだろう、折角、あの村にまで出かけたのに。
コメント
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