瀬崎祐の本棚

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詩集「春の謎」  高垣憲正  (2010/11)  土曜美術社出版販売

2011-02-01 19:51:41 | 詩集
 第5詩集。122頁に40編が収められる。
 作品のほとんどが散文詩であり、徹頭徹尾、描写である。何を選び取って記述するか。そこに自ずから作品世界を作ろうとする意志が働く。
 たとえば、「春椿」では近くに椿の木もないのに「赤い椿、白い椿の大きな花が二つ並んで落ちてい」る様を描写する。なぜここに花が落ちているのか、「ちょっとした春の謎」なのである。また「池坊主」では池に浮かんでいるヘルメットを、「薫風」では風に鳴っている倉庫のシャッターを描写している。それはかすかにこの世界にきしみを入れるように、気持ちに逆波を立たせるものごとの描写である。
 「残光」は、夕映えのなかで、甲板では漁網のなかできらきらとする魚が跳ねている、しかし詩われているのは、

    もう誰もいなくなった団地の片隅、電柱に結わえつけられ、腹
   いっぱいに膨らんだネットが横たわる。分別されて中にひしめく色
   さまざまなアルミ缶が、束の間をいっせいに煌めくのはこの時刻だ
                               (後半部分)

 描写したものの裏には、逆に、描写されなかったものが潜んでいる。描写されることによって、作者から逃げていくものもまたあっただろう。
コメント
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