瀬崎祐の本棚

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詩集「ノミトビヒヨシマルの独言」  季村敏夫  (2011/01)  書肆山田

2011-02-22 20:03:22 | 詩集
 181頁に40編を収める。
 太平洋戦争時に、中国大陸に出征し、東南アジア戦線に転戦し、そして復員した”父”を中心にした作品で構成されている。戦線での父を思い、復員後の荒れた父をみている話者がいる。

   北支から南方、コタ・キナバル、ゼッセルトンの捕虜収容所で、
   獰猛な植物群に囲まれ、父が踊る。踊りながら収縮し、しずくとなる。
   しずくとなって、森に飛び散る。

   (略)

   しずくがしずくを呼び、次第に膨らみはじめ、集結して光になる。
   息から息への六十二年後の逢魔が刻、アピを疾走する影があった。
   お前はここの住民ではない、逃亡せよ、
   一刻もはやく。影は命じられたが、森の奥へと突き進んでいった。
                              (「聖家族」より)

 常に、その父に対峙する話者がいる。この話者はおそらく著者と非常に重なり合っていると考えられるのだが、この発話者の自己検証が作品を深みのあるものにしている。父の人間性を認め、その存在が自分の基盤のひとつとなっていることを確認しながらも、その一方で父というものの存在の呪縛から逃れようとしている自分もいるようだ。
 重く、暗い内容を真っ向からこちらへ投げつけてくる詩集である。身内からわき上がってくるそれらを、言葉で表出することによって自分から離すこと、客体化することが、著者には必要だったのだろう。
コメント
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