瀬崎祐の本棚

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詩集「フリアの庭で」  植木信子  (2009/07)  土曜美術社出版販売

2009-07-29 21:56:38 | 詩集
 「ひそむ」は、「大切な人が逝った」あとを詩った鎮魂歌。白くぼんやりとしたものがわたしの周りに浮かんでいるので、それを追う。般若心経の一節が仮名表示されて呪文のような効果を出している。

   沢山の個体のひとつの角質が剥がれて硬くなる
   ただそれだけの
   大きな無言の孤独だった

 大事なものを失ってしまった欠落感の大きさに耐えることの辛さが過不足なく伝わってくる。それはあまりにも辛いので、夢に「白くぼんやりとしたもの」があらわれてくることにさえ怒りを感じるほどなのだ。そして最終連、

   あなたは澄んだ湖のほとり たましいだけになり竪琴を弾いていた 弾いていた
   わたしはステンドグラスにひそみ聞いている 聞いている
    (そうしていよう)                 (最終連)

 この、「弾いていた」「聞いている」の繰り返しが、なんとも切ない。この辛さに耐えるためにはそうするしかないのだが、そのことすらも無理矢理自分に言い聞かせなくてはならない。自分で納得するために、思わず繰り返しているのだ。この最終連で気持ちは空に上がっていく。
コメント
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