そこからは、ガスの中の登山となった。でも、最初はそれで良かったのかも知れない。確かに、グッチやピーちゃんが言っていたとおり、かなりのアップダウンであった。ようやく登り切った分、また登らなければならないというのを3回くらい繰り返しただろうか。でも、先が見えないので、登る前からうんざりすることがなくて済むのは幸いである。
最後の登りはかなりきつかった。痩せ尾根を一気に登るのだが、岩やハイマツなどをつかまらなくてはならないところがある。また、ガスの中ということで岩も滑りやすい。片方が一気に急な崖となって落ち込んでいるようなところもある。
そこを通り過ぎると斜度が一気に緩やにとなり、これまでと異なって、小さめの岩がらがらと積み重なったところを進んでいく。ここにはナキウサギがたくさんいた。声がたくさん聞こえるばかりでなく、その姿を当たり前のように見ることができる。登山道をイワブクロをくわえて走って横切る姿まで見られた。そう言えば、前日のトムラウシでもそうであった。きっと餌集めに忙しいのであろうが、まだ8月の初めなのにこれほどまで走り回っているということは、単にガスがかかって敵に襲われにくいというばかりでなく、ひょっとすると動物の世界では、今年は秋の訪れがはやい、ということが察知されているのかも知れないと思われた。滅多に見られないからこそありがたいナキウサギであるが、ここまで見られると、ごく普通の動物に思えてくるくらいで、写真を撮る気も起こらなかった。
その緩やかな道が終わると稜線に出、道は左に曲がり、山頂の裏側に回る。ここからまた土の道が始まる。山頂の下を同様に一旦反対側の稜線まで進む。稜線に出ると今度は稜線に沿って左に折れ、少し登ると山頂である。
山頂はものの見事にガスの中であった。しかも人が多い。関西の人達が多いと見え、関西弁が飛び交っている。まして、登山人口の中心を占める中年の方々である。中でもおばさま方の声は、ガスの中でも迷わないくらい響き渡っている。写真を撮り、昼食を食べ始めると、彼らは下山を初め、山頂は一気に静寂さを取り戻した。
山頂でびっくりする出会いがあった。何と、前の日にトムラウシの山頂で写真を撮ってもらった男性がいたのである。挨拶すると、その人も驚いていた。トムラウシに登った翌日にニペソツに登るような物好きが、私の他にもいたことには驚いた。
展望も全くないため、昼食を済ませて休憩をした後、私達も早々に山頂を後にした。下りは登り以上に淡々としたものだった。書くことが特に思い浮かばない。他の山々も全く見ることなく下山した。私の山行の中では、初めて旭岳に登った時と並び、最も展望に恵まれなかった山行であった。でも、念願のニペソツに登れた達成感は得ることができた。