桑の海 光る雲

桑の海の旅行記・エッセー・書作品と旅の写真

登山の記38・ニペソツ山1,2回目②

2006-05-11 22:53:42 | 旅行記

そこからは、ガスの中の登山となった。でも、最初はそれで良かったのかも知れない。確かに、グッチやピーちゃんが言っていたとおり、かなりのアップダウンであった。ようやく登り切った分、また登らなければならないというのを3回くらい繰り返しただろうか。でも、先が見えないので、登る前からうんざりすることがなくて済むのは幸いである。

最後の登りはかなりきつかった。痩せ尾根を一気に登るのだが、岩やハイマツなどをつかまらなくてはならないところがある。また、ガスの中ということで岩も滑りやすい。片方が一気に急な崖となって落ち込んでいるようなところもある。

そこを通り過ぎると斜度が一気に緩やにとなり、これまでと異なって、小さめの岩がらがらと積み重なったところを進んでいく。ここにはナキウサギがたくさんいた。声がたくさん聞こえるばかりでなく、その姿を当たり前のように見ることができる。登山道をイワブクロをくわえて走って横切る姿まで見られた。そう言えば、前日のトムラウシでもそうであった。きっと餌集めに忙しいのであろうが、まだ8月の初めなのにこれほどまで走り回っているということは、単にガスがかかって敵に襲われにくいというばかりでなく、ひょっとすると動物の世界では、今年は秋の訪れがはやい、ということが察知されているのかも知れないと思われた。滅多に見られないからこそありがたいナキウサギであるが、ここまで見られると、ごく普通の動物に思えてくるくらいで、写真を撮る気も起こらなかった。

その緩やかな道が終わると稜線に出、道は左に曲がり、山頂の裏側に回る。ここからまた土の道が始まる。山頂の下を同様に一旦反対側の稜線まで進む。稜線に出ると今度は稜線に沿って左に折れ、少し登ると山頂である。

山頂はものの見事にガスの中であった。しかも人が多い。関西の人達が多いと見え、関西弁が飛び交っている。まして、登山人口の中心を占める中年の方々である。中でもおばさま方の声は、ガスの中でも迷わないくらい響き渡っている。写真を撮り、昼食を食べ始めると、彼らは下山を初め、山頂は一気に静寂さを取り戻した。

山頂でびっくりする出会いがあった。何と、前の日にトムラウシの山頂で写真を撮ってもらった男性がいたのである。挨拶すると、その人も驚いていた。トムラウシに登った翌日にニペソツに登るような物好きが、私の他にもいたことには驚いた。

展望も全くないため、昼食を済ませて休憩をした後、私達も早々に山頂を後にした。下りは登り以上に淡々としたものだった。書くことが特に思い浮かばない。他の山々も全く見ることなく下山した。私の山行の中では、初めて旭岳に登った時と並び、最も展望に恵まれなかった山行であった。でも、念願のニペソツに登れた達成感は得ることができた。

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登山の記37・ニペソツ山1,2回目①

2006-05-09 23:21:10 | 旅行記

そんないきさつを経て、登山を決行したのはその2年後だった。初めてのトムラウシ行きから帰ってきた晩、Oさん、Kさん、Sさん(女性)と話がまとまり、登ることになったのだった。私は念願のニペソツに登れることに、疲れも吹っ飛んでいた。

翌朝。空はどんよりと曇っている。予報は曇り時々晴れ。十勝方面はきっと天気が良いだろうと楽観的に考えて出かけた。三国峠を越えると・・・やはり曇っていた。真正面に見えるはずの山々が全く見えない。でも、山頂は雲の上に出ているんじゃないか、とまたもや楽観的に考え、とうとう登ることに決めたのであった。

杉沢出合には車がけっこう停まっていた。そう、今日は土曜日である。Kさんは既にニペソツに登ったことがあるので、Oさんが先頭、Sがその次、私が3番目、Kさんが最後尾で登っていく。川を渡って林間の尾根筋を延々と登っていくのだが、これがかなりきつい。展望もきかず、風もない。しかも尾根筋をほぼまっすぐ登っているので、斜度がかなりある。しかし先頭のOさんはかなりハイスピードである。Sさんも普通に後を付いていく。私はトムラウシの疲れも残っていたが、念願のニペソツということで気合いが入っていた。問題はKさん。かなり荒い息づかいが聞こえる。大変そうな様子だ。でも、何も言わない。いや、誰も何も言わない。とにかく、黙々と登っていく4人であった。

小天狗の鎖場で最初の休憩をした。Kさんが「Oさん速いよ~!」とここで声を上げた。私はいつもの調子であったからそう速いとは思わなかった。Sさんは平然としていた。ここから天狗のコルまで下り、そこからナナカマドの間を登っていくと視界が開け、ハイマツ帯が始まる。すると、目の前にちょろちょろと動く動物が見えた。初めナキウサギかと思ったが、違う。声が違う。それはエゾオコジョであった。さかんに岩の隙間を出入りしている。背中の焦げ茶色の毛と、腹の真っ白な毛の配色は鮮やかで、また目が可愛らしい。しかしKさんによれば、この可愛らしい動物が、あのナキウサギを食べてしまう獰猛な面を持っているのだそうだ。

その辺りからハイマツ帯に入り、視界が開けた。空は相変わらずどんよりと曇り、本来なら見えるという表大雪連峰など全く見えない。前天狗の山腹を巻くように付けられたほぼ平らな道を進んでいき、岩場を登り切った時、Kさんの大きなため息が漏れた。本来ならここでニペソツが初めて見えるのだそうだ。でも、私達の前には真っ白なガスの光景しかない。しかし、ここまで来てしまった以上は戻るのももったいないし、Kさん以外の3人はニペソツは初めてだったので、ともかく登頂だけはしようということに決めた。

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登山の記36・ニペソツ山1,2回目0

2006-05-07 22:23:46 | 旅行記

ニペソツ山に登ろうと考えたのは、就職して3年目、ゆわんと村にはまった年のことだった。あの時は長期宿泊者や、私のような出戻りを繰り返す人がけっこういたし、旅人そのものが多く、ゆわんと村もほぼ毎日満室状態だった。

そんな中で、表大雪の山々はほとんど登り尽くしてしまい、次にどこに登ろうか、という話になった時、ゆわんと村の壁に貼ってある地図の隅に、ニペソツ山という、東大雪では最高峰の2,000メートルを超える山があることに気付いた。本で調べてみると、かなりのアップダウンはあるものの、何と言っても山の姿が美しく、山頂からの表大雪・トムラウシ・十勝連峰・石狩連峰の眺めが素晴らしいとある。それを見ていた私とNさん、Aさん、Oさんの4人は、何だか熱に浮かされたように、ニペソツに登ろう!という思いで団結していたのであった。

ところがそんな思いに水を差すようなことが起こった。ゆわんと村ではお馴染みのグッチとぴーちゃんが、山ガイドの編集のための仕事も兼ねて、ニペソツに登ってきて、その様子を報告してくれたのだった。それによると、とにかくアップダウンがきつく、それが特に帰りの疲れの溜まった足と体に応える、というのだった。山に登り慣れている二人がそう言うのだから事実なのだろう。しかも、林道には鹿が多く、運転にも注意を要するとのことだった。

でも、熱に浮かされた4人は、そんな忠告にも耳を貸す気配はなく、天気の良い日を選んで登ることに決め、着々と準備を進めたのであった。

そして決行の前日。天気予報では晴れ時々曇りだったように思う。コンビニで食料を揃え、朝食は不要と告げ、翌朝は4時起床と決めて早めに床に就いた。

時計を見るとちょうど4時。すぐにカーテンを開けると・・・そこにはどんよりと曇った空があった。1階に下りると、他の3人が落胆した表情で座っていた。外に出てみると雨がぽつぽつ落ちている。仕方なくニペソツ行きは中止して、再び床に就いた。その後、皆がゆわんとの美味しい朝食を食べている横で、4人はコンビニのおむすびをぱくついていた。

その日は折しも行われていたオリンピックなど見て過ごしていた。結局、その年はニペソツに登れずじまいだった。

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登山の記35・2回目のトムラウシ⑩

2006-05-05 21:06:42 | 旅行記

下山はのんびりと、とにかくゆっくりと景色を堪能しながら下ろうと思った。すれ違う人も少なく、そここで足を止め、トムラウシを振り返り、辺りを見回した。山々に雲のかかる気配はなかった。

化雲岳は結局岩に登らず、横を通り過ぎただけだった。化雲岳から化雲平へ続く平地もまだエゾノハクサンイチゲをはじめとする花々が沢山咲いている。荷物を置き、写真を撮影して出発し、化雲平まで来て、再び写真を撮ろうと思ったら、何とカメラがない。慌てて引き返すと、分岐点の木道の上に置いたままにしてあった。危ない危ない。気付いてよかった。

後は五色ヶ原を一気に下るだけであった。ヘリコプターは昨日と同じく何度も何度も木道を山へ運び上げている。途中で木道を設置している作業員にも会った。いくらヘリコプターで運び上げてもらえるとはいえ、こんなところで作業をするとは本当に大変だなと思った。

五色ヶ原を行く間も、私は立ち止まっては何度もトムラウシを眺めた。深田久弥が「日本百名山」で「天人峡への下りも、灌木地帯に入るまでは美しい高原の道であった。そこから何度私はトムラウシを振り返ったことであろう。」と述べているのを、まさに追体験したのであった。

最後にトムラウシを眺めたのは、沼ノ原からであった。大沼の向こうに聳え、水面にその姿を映すトムラウシ。今度登るのはいつになるだろうか。そんなことを思いながら、私はトムラウシの姿を目に焼き付けた。

沼ノ原の登山口まで戻り、渡渉地点にやって来た。すると対岸にゆわんとで一緒になったことがあるTさんがいた。私は川を渡るために、Tさんめがけて登山靴を脱いで投げた。投げたところで、Tさんから橋が渡してあることを知らされた。私は再びTさんに靴を投げ返してもらい、橋を渡ってTさんと一緒に駐車場へ戻った。

その後黒岳の湯に入ったが、首筋に湯を掛け、痛みに飛び上がった。うなじのところが日に焼けすぎ、やけどのように皮がむけてしまっていた。額には見慣れぬシミも出ている。これからはちゃんと日焼け止めを塗って登ろうと思った。

あれから7年。トムラウシへ続く木道も完成し、登りやすくなったと聞いた。そろそろもう一度登ってみたいとも思っているが、素晴らしい光景に恵まれ、思いがけない出逢いもあった印象的な山行の思い出を壊すことになるのではないかと思ってしまい、未だに登れずにいるのである。

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登山の記34・2回目のトムラウシ⑨

2006-05-03 23:18:51 | 旅行記

最後のきつい斜面を登り切るとトムラウシが再び顔をのぞかせる。ここからは昨年経験済みの光景である。緩やかな斜面を越えると北沼に着き、そこから山頂への最後の登りにかかるのである。

それにしても素晴らしい天気である。薄く霞のようなものがたなびいているが、全く気にならない。振り返ると表大雪の雄大な眺め。その手前には化雲岳山頂の大岩”化雲のへそ”がなだらかな山容の上にちょこんと乗っているのも見える。

山頂への登りは、今年も迷ってしまった。ペンキのマークがないことにもよるのだが、そのせいか、あちこちに踏み跡がある。迷うもとでもあり、高山植物の踏みつけのもとにもなる。景観を壊すことにもなろうが、遭難などを防ぐためにも、マークを付けてほしいと思った。

山頂に到着した。今年は昨年以上に素晴らしい眺めだった。南には遠く日高山脈が見える。最高峰はおそらく幌尻岳であろう。南西には手前のオプタテシケ山から続く十勝連峰が見える。

ここで私は硫黄臭い臭いのもとに気付いた。この日は朝から無風状態であり、十勝岳の噴煙が風によって拡散することなく、標高2,000メートル付近に漂っているのであった。オプタテシケ山やベベツ岳のような緑濃い山々と異なり、十勝岳のみは灰色の山容をのぞかせている。まさに生きている火山であることを実感させられる。

十勝連峰の奥には夕張岳と芦別岳が見える。東に目をやると一昨日登頂したニペソツ山と、石狩岳が見える。そして眼下にはトムラウシの東峰と火口が見える。トムラウシに火口があることは昨年知ったが、今年は底にわずかに水が溜まっているのが見えた。

ともかく眺める山々、そして景色が多すぎた。私は飽きることなく周囲を眺め回していた。眺めることに満足したので写真を撮ろうとしたが、あいにく山頂には誰もいなかったので、岩の上にカメラを置いてセルフタイマーをセットして撮した。撮り終わると二人の若者が登ってきたので、お願いして撮してもらった。私も彼らのために撮影してあげた。

二人はカメラと、ビニール袋に雪を詰めたものだけ持って登ってきていた。その中からヱビスビールの大缶を取り出し、美味しそうに飲んでいた。聞けば、クワウンナイ沢を登ってきたのだそうである。クワウンナイ沢は滝ノ瀬十三丁に代表される大変美しい渓流で、川床を歩くことができる珍しい沢だが、事故の頻発やゴミの大量投棄が問題となり、現在は遡行が禁止されていると聞いていた。それを犯してまでもこうして登ってくる人がいるとは、きっと素晴らしいところなのだろう。そういえば荷物をデポする時、沢登りに用いるわらじが脱ぎ捨ててあったのを見たような気がした。

山頂には小一時間もいただろうか。ヘリコプターの飛ばないうちに化雲平の花や光景、五色ヶ原からの眺めを楽しみたいと考えていたので、本当に後ろ髪引かれる思いで山頂を後にした。

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登山の記33・2回目のトムラウシ⑧

2006-05-01 20:54:49 | 旅行記

昨年来た時はガスに覆われ、わずかに石と水と高山植物の取り合わせを眺めただけで、その全貌がはっきりしなかった日本庭園に今年もやって来た。

その素晴らしさは想像を遙かに超えていた。雪渓から流れ出た水は池を作り、波一つ立たない水面には真っ青な空が映っている。水辺はイワイチョウを初めとする高山植物が埋め尽くしている。チングルマやエゾノハクサンイチゲもあちこちに咲いている。池の中や周りに配された岩は苔むし、京都の寺院などの庭園の石組みそのものであった。しかし、特に天沼を中心とする光景は、規模と美しさの面で、そうした庭園を遙かに超えていた。天沼の向こうには遠くトムラウシの山頂が少しだけ頭をのぞかせており、まさに天然の借景である。しかもそれが自然の力のなせるわざで、人の手が全く加わっていないのは、まさに人知を越えるものであると言えよう。

天沼に着くまで、誰とも会わなかった。そして、ロックガーデンで自治医大一行に会うまで、私はたった一人で天沼の見事な光景を独り占めした。夏の一時、日本庭園の光景は、まさに私のためだけにあったのである。

もちろん、天沼の近くにも、この日作られるとおぼしき木道が用意されていた。つまり、私は木道の設置されていない日本庭園を最後に歩くことになるかも知れないのであった。

日本庭園は帰りにも寄ることができるので、私は先を急いだ。そこからはロックガーデンが始まるが、今年は見通しが利くのでゆとりを持って歩ける。ここで私は自治医大一行と出会った。一行は頭にヘッドライトを付け、水とカメラだけを手にしていた。水守君によれば、トムラウシ山頂から素晴らしいご来光を眺められたという。この後ヒサゴ沼のテントを撤収し、天人峡に下るとのことであった。思いも掛けない出逢いに感謝しつつ、彼らと別れた。

ロックガーデンを通過し、最後の急な斜面を登る。後ろを振り返ると、雄大な表大雪の山々を眺めることができた。昨年はこの辺りから雲海の上に出たのであるが、今年は快晴のもと登ることができるのである。きつい登りもさして苦にならなかったが、硫黄臭い臭いがちょっと気になり始めた。

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