桑の海 光る雲

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登山の記40・ニペソツ山1,2回目④

2006-05-15 21:38:25 | 旅行記

前天狗に着く頃には、空には大分雲が出始めていた。ひょっとするとニペソツが見えないのではないか、という心配を抱きつつ、最後の岩場を登った。登山口からここまで約3時間ほどかかっている。登り始めてそれほどまで主峰の姿を見ることができない山というのも珍しい。私が登った中では、他には幌尻岳くらいである。

岩場を登り詰めた私達の目の前に、ニペソツの鋭い山容が現れた。私は思わず歓声を上げた。ここまで登ってきて良かったと思った。そして、このまま行くと山頂に着く頃までには山頂に雲がかかってしまうのではないかと思われた。念願のニペソツを目の前にしながら、自然と足が速まり、その先に続くきついアップダウンもあまり気にならなかった。

山頂直下のガレ場では、ナキウサギの声は聞こえたが、去年のように沢山その姿を見ることはできなかった。やはり去年が異常だったのだろう。

山頂に着くと、空の高いところには雲が浮かんでいて、青空は見えなくなってしまっていたが、山頂には幸いに雲はかかることなく、周囲の山を眺めることができた。表大雪、トムラウシ(まさかその翌々日に登頂することになろうとは、この時はまだ想像だにしていなかった)、十勝連峰、石狩岳と音更山、ウペペサンケ山、クマネシリ連山。四方の山々すべてを眺めることができた。

早足で登ってきた分、山頂ではゆっくり休んだ。山頂は風もなく、また去年と異なって人も少なく、快適な一時を過ごすことができた。一緒に登ってきたFさんも満足げだった。

毎度のことながら心を残しつつ山頂を後にした。さすがに帰りは行きのようにはいかず、何度も休みを取りながら、きついアップダウンを繰り返した。しかし、休みを取るたびにニペソツを振り返った。ニペソツにはいつまでも雲はかからず、その雄大な山容を見せ続けてくれた。

前天狗で大休止をとり、最後の写真を写した。これがこの時の山行でニペソツを眺めた最後の時だった。

それ以降はひたすら下るのみだった。Fさんが図らずも私と同じような仕事に就いていること、仕事上いろいろと悩みを抱えていることなど、Fさんの身の上話を聞いてあげているうちに、あっという間に登山口に着いてしまった。

三股山荘でお茶でも飲もうということになり、Fさんの車で林道を下っていった。あるカーブを曲がった時、目の前に黒い二つの物体が林道にうずくまっているのが目に入った。そう、ヒグマである。しかも、親子のヒグマだった。どうやら林道で好物のアリを食べていたらしい。私達の車が急ブレーキを掛けて止まった音に驚き、母熊が小熊を置いてさっさと森の中に駆け込んでいき、その後を慌てて付いていく小熊の姿がかわいかった。(でも、そんなこと、車に乗っていたから言えたんだよなぁ・・・)カメラを取り出している暇もないほどのあっという間の出来事だった。ちなみに野生のヒグマを見たのはこれが初めてだった。

三度目の正直で、ようやく晴れたニペソツに登ることができた。Fさんに加え、初めて登山を企画した時のメンバーとも感動を分かち合えればよかったのに、と思われた。

コメント
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