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礼文島断章11・Hさんのこと②

2005-04-18 21:18:00 | 旅行記
結局その時、Hさんと一緒にどこかに出かける、ということはなかった。翌日もお互いに思い思いの場所をまわり、YHに戻ってきた。Hさんは、明日から南下し、仙台の道中庵YHに泊まるとのことだった。私もこの後遠野、唐桑とまわり、最後に道中庵に泊まるつもりだったので、夕食の提供のない日などの情報を聞けてありがたかった。翌日、Hさんに見送られ、YHを出発した。

その翌年から、6~7月に星観荘を訪れると、毎年Hさんに出会った。Hさんはいつもたくさんの女性ファンに囲まれ、いつもご機嫌だった。中でも一番印象的だったのは、言葉の不自由な女性が泊まっていた時のことである。彼女はいつも小さなホワイトボードを持ち歩き、筆談をしていたが、Hさんは花のことや島の見所を懇切丁寧に説明していた。さらにHさんは、彼女が島に滞在している間、ずっと一緒に行動してあげていたのである。彼女は山から帰ってくると、とても楽しそうな表情をしていた。Hさんがいなければ、彼女はあれほど楽しそうな表情をすることはもなかったかも知れない。

私の方はどうかと言えば、ゲンゲの丘&召国コースを一緒に歩いたのが忘れられない。確か、Mさん、Iさん、Sさんと一緒だったように思う。ゲンゲの丘で、満開のゲンゲを眺めながら昼食を食べ、Hさんの案内で、一面ピンク色で埋め尽くされたゲンゲの丘を下から眺め上げた時の素晴らしい光景は、今も印象深い。

Hさんは、旅の様子を、「礼文島花と人の旅by風転乃平(どらじい)」とまとめ、私にも数年間毎年送って下さった。どれも時間をかけてとても丁寧にまとめてあり、毎年それを読むのが楽しみだった。また、私が礼文で幻の花の一つに数え上げられているトチナイソウを見てみたいと話した時、実はHさんはその年トチナイソウを見に来ており、しかも、実際に目にして写真に収め、その写真を送って下さった。何気ない一言だったのに、そのことを覚えていてくれたのが、何とも言えず嬉しかったのを覚えている。

そんなわけで、2000年をはさんだ数年間の私の礼文行きの写真には、必ずと言っていいほどHさんが写っている。花の時期に星観荘に行くとHさんがいるのは自然なことに感じられるほどだった。

そんなHさんも、体調を崩されたのか、花の時期の星観荘に来ない年が続いた。私とも、年賀状のやりとりだけになった。そんなHさんが、昨年久しぶりに星観荘に長期滞在した。私は昨年は8月に訪れたので、Hさんに会うことはできなかった。年の年賀状には「体調を崩したりで」とあって、ちょっと心配したが、礼文に長期滞在できたのだから、そんなに問題でもないのだろうと思っていた。

そこへ、突然Hさんの訃報が飛び込んできた。星観荘の掲示板においてである。あまりの突然の知らせに、しばし茫然としてしまった。私の星観荘の思い出の重要な要素の一つが欠け落ちてしまったような気がしたのである。

平沼さん、天国でもいい旅を続けて下さい。ご冥福をお祈りします。

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