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五竜岳~鹿島槍ヶ岳1

2007-08-17 23:40:35 | 旅行記

昼の雲舟のさまして動かざる鹿島槍てふ藍の山かな(三好達治)

深田久弥「日本百名山」の、鹿島槍ヶ岳の項で冒頭に掲げられているのがこの歌である。それ以外にも、白馬を訪れるたび、独特の山容の鹿島槍ヶ岳の姿に魅せられてきた。なぜそんな遠くからでも鹿島槍ヶ岳ということがわかるのか。それは、二つのピークが吊尾根で結ばれている独特の山容によるのである。

かねてから登りたいと念願してきたが、登ろうと思うといつも悪天候に泣かされ続けてきた。今回が4度目くらいのチャレンジだと思う。幸い今回は長期予報では晴れが続いていた。今回は何とかなりそうである。

鹿島槍ヶ岳だけ登るのはちょっともったいない気がしたので、その北にある五竜岳もあわせて登ろうと思った。しかも、この時期はどこの山小屋も大変混雑する。ところがネットで調べてみると、この二つの山の間にあるキレット小屋は泊まる人が少なく、しかも食事も良いという。というわけで、五竜とおみのスキー場から上がり、五竜岳に登頂し、キレット小屋に泊まり、翌日は鹿島槍ヶ岳に登頂して、その後扇沢に下り、バスと電車を乗り継いで、五竜とおみのスキー場まで戻ってくる、というプランを立てた。

五竜とおみテレキャビンで一気に上がり、登り始めた。それにしても暑い。しかも山は雲に隠れて見えない。風もあまり吹かない中、汗をたらたら流しながらもくもくと登っていった。

五竜小屋までの遠見尾根の登りはひたすら苦行、という感じだった。10~20分ごとに休むが、とにかく体力の消耗がひどい。もういい加減うんざり、というところでひょっこりと小屋が見え、小屋に着いた。

小屋で昼食を済ませ、目の前にそびえる五竜岳の登りににかかったが、それにしてもすごい斜度で、手で岩をつかみながら慎重に登らなくてはならない。足場も悪く、雨で岩がぬれていたりすればかなり危険だろうと思われた。

悪戦苦闘の末に山頂に着いた。五竜岳は、春先の雪形が、ちょうど武田家の家紋の御菱に似ているところからその名がついたといわれるが、その雪形はどの辺りに出るのかな、と思った。山頂はかろうじて日が差していたが、辺りはガスの中で、何も見えなかった。

五竜岳からキレット小屋へのルートは実に苦しかった。ガスがかかっていたので、暑さに悩まされることはなかったが、それにしても長く、飽きるほどのアップダウンを繰り返した。はしごや鎖場も多く、慎重に歩かなければならなかった。

コースタイムどおり、4時間かかってキレット小屋に着いた。もういい加減うんざりして、もういい!と思わず叫びそうになった頃、ひょっこりと目の前に小屋が現れたのだった。

小屋はまさに質実剛健という感じで、余計な装飾は一切なかった。部屋や食堂、トイレもきれいに掃除されていた。食事も、山小屋とは思えないほどで、ハンバーグにポテトサラダ、焼き魚にたけのこの煮物、おしんこに白菜の味噌汁。ご飯もおいしくてびっくりした。これほどの食事を出してくれる山小屋が他にあるだろうか、と思えるくらいだった。

食事を終えて外に出ると、びっくりしてしまった。さっきまでのガスがウソのように晴れ、鹿島槍ヶ岳の姿がくっきりと見えるのである。明日この山に登るのかと思うと、胸が高鳴った。

さらに驚いたのは、日没の直前である。ガスがすっかり晴れ、目に飛び込んできたのはなんと剣岳であった。キレット小屋から真正面に、剣岳と毛勝三山が見えるのであった。

さらに驚いたことに、この日は新月で、しかも月は剣岳の真上に輝いているのである。鋭い峰峰の立ち並ぶ剣岳の上に鋭く輝く新月。その取り合わせの妙には、思わず驚嘆せずにはおれなかった。

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