みちのくの山野草

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私たちはどう生きるか③『谷川徹三集』(昭和33年)

2022-02-19 16:00:00 | 一から出直す
《三輪の白い片栗(種山高原、令和3年4月27日撮影)》
 白い片栗はまるで、賢治、露、そして岩田純蔵先生の三人に見えた。
 そして、「曲学阿世の徒にだけはなるな」と檄を飛ばされた気がした。

 では今回は、〝『谷川徹三集』(ポプラ社、昭和33年)〟に関してある。
【「谷川徹三集」(ポプラ社、昭和33年)の表紙】

【〃の見返し】

というわけで、この『谷川徹三集』は「私たちはどう生きるか」シリーズの第三集でもあることが分かる。そして、
【〃の奥付の裏】

には、
 私たちはどう生きるか 全20巻
 現代日本の最高権威者が青少年のために書かれた珠玉の人生論。若き人々にふかい英知と幅ひろい批判力を与える知性の花束!
とあった。その第三集がこの『谷川徹三集』になっているわけだ。そして同集については、
   人生案内・幸福について・他
というキャプションが付してあった。
 そしてこの『谷川徹三集』には谷川の19編の作品が収められており、
【〃の目次の一部等】

とあることから、
    「雨ニモマケズ」
という作品も載せられていた。
 そこで私は、当然この作品に目が行った。ところがそれを見て直ぐ気づいたのは、なんだこれはあの講演録「今日の心がまえ」(『宮沢賢治の世界』(谷川徹三、法政大学出版局)所収)と同じではなかろうかということだ。そして見比べてみたならば、この講演録の漢字がひらがなになったり、「父親」が「おとうさん」になったりしてはいても、本質的な違いはない。強いていうならば、講演では「最後にもう一度「雨ニモマケズ」を朗読して、この話を終わりたいと存じます」と締め括って、実際に朗読して講演を終えた部分がこの本では削除されているくらいなものだ。
 逆に、次の発言内容などはそのまま残っていた。まずは、
 いまもうしましたように、この詩は十一月三日に書かれたものですが、十一月三日に書かれたというのもわたしには偶然とは思えない。 十一月三日という日はわたしども――…投稿者略…には、わすれることのできない天長節の日であります。このなつかしい天長節の日に、賢治がこの詩をかいたということに、わたしは大きな意味をみとめたいのであります。
             〈『谷川徹三集』(ポプラ社、昭和33年)208p〉
の部分がである。また、
 私は「今日の心がまえ」という主題から非常に離れたようであります。主題に少しも触れなかったではないか、と思っておいでの方もあるかも知れない。しかし「雨ニモマケズ」の精神、この精神をもしわれわれが本当に身に附けることができたならば、これに越した今日の心がまえはないと私は思っています。今日の事態は、ともすると人を昂奮させます。しかし昂奮には今日への意味はないのであります。われわれは何か異常なことを一挙にしてなしたい、というような望みに今日ともすると駆られがちであります。しかし今の日本に真に必要なことは、われわれが先ず自分に最も手近な事を誠実に行うことであります。
            〈『宮沢賢治の世界』(谷川徹三著、法政大学出版局、昭和45年)31p〉
の部分もである。
 だから私の違和感はさらに増した。もともと、この講演「今日の心がまえ」は昭和19年9月20日に行われたものであり、タイトルからも示唆されるように、
と、私には思えるからだ。そしてそう解釈されても致し方ないと、谷川自身も認識していたということが否定できない<*1>。にもかかわらず、戦争が終わって暫く経った昭和33年になっても谷川はそのまま上掲の発言を「青少年のために書かれた珠玉の人生論」の中に残していたのである。
 一方、このシリーズの中にはご覧のように「高村光太郎集」もあるが、多いに戦意高揚に寄与したが、後にそのことをいたく悔いて自己流謫をした高村光太郎だからなおさらに、私は谷川に対してはますます不信感が増してしまう。そもそも、このシリーズは「現代日本の最高権威者が青少年のために書かれた珠玉の人生論」ということであるから、谷川はそのことを一度総括して、その反省も生かしてこの「今日の心がまえ」を青少年のために訴えねばならなかったのではなかろうか。しかし、そのかけらさえも私には見つけられない。だから逆に、あっ、そうかこの全集はまさに「若き人々にふかい英知と幅ひろい批判力を与える知性の花束!」であったのか、と解釈した。それは、以前何度か谷川の講演「今日の心がまえ」においては、谷川には健全な批判精神が欠けていると私は主張したところだが、谷川は「健全な批判精神が欠けていると同じ過ちをことを繰り返しますよ」ということ教えたかったので、この講演をそのまま繰り返したのか、とさえ私には思えた。一方でこの頃の谷川は熱心に、教科書で賢治を聖人化しながら、である

<*1:註> 以前、〝谷川徹三「今日の心がまえ」(昭和19年)(戦意高揚)〟でも述べたように、谷川はこの講演で、
 私は「今日の心がまえ」という主題から非常に離れていたようであります。主題に少しも触れなかったではないか、と思っておいでの方もあるかも知れない。しかし「雨ニモマケズ」の精神、この精神をもしわれわれが本当に身に附けることができたならば、これに越した今日の心がまえはないと私は思っています。今日の事態は、ともすると人を昂奮させます。しかし昂奮には今日への意味はないのであります。われわれは何か異常なことを一挙にしてなしたい、というような望みに今日ともすると駆られがちであります。しかし今の日本に真に必要なことは、われわれが先ず自分に最も手近な事を誠実に行うことであります。
            〈『宮沢賢治の世界』(谷川徹三著、法政大学出版局、昭和45年)31p〉
ということを聴衆に語っていることから、なおさらにそう勘ぐりたくなる。時局は敗色濃厚に見えるが、皆さんはお国の言うことに不平不満など抱かずに、「雨ニモマケズ」精神で日々を耐え忍んでゆくことが必要なのですと、谷川は語っていたといえるのだと。
 ただその一方で、谷川には賢治を利用することに対しての一抹の不安や後ろめたさもおそらくあったであろうことは私にも想像できる。それは、谷川はこの講演の終盤で、
 …投稿者略…「雨ニモマケズ」はその彼の内心の祈りだったのであります。その心からすれば、このような詩でない詩が、今もなおこんな風に採り上げられていることを彼は喜ばなかったかも知れない。どんな人に対しても謙虚に対したというあの気質から、恥ずかしいがことだと地下で思っているかも知れない。しかし、人類の精神的財産というものは、実はそういうふうにして作られるものであります。わたくしのものが公にせられ、秘密のものが明るみに出され、無意識なものの意味が意識される。そこに人類の意識的共有財産は初めて作られるのであります。私が恐らく宮沢賢治自身の意志に反しても、この詩の、また宮沢賢治の文学の今日における大きな意味を知って頂きたいと思うのは、その故であります。
              〈『宮沢賢治の世界』(谷川徹三著、法政大学出版局)38p~〉
と述べているからである。「彼は喜ばなかったかも知れない」とか「恥ずかしいことだと地下で思っているかも知れない」と述べているし、もちろん「」とは賢治のことだ。そして、「私が恐らく宮沢賢治自身の意志に反しても」と述べていたのは、賢治に対しての谷川の後ろめたさの表れであり、「私が恐らくこの詩の、また宮沢賢治の文学の今日における大きな意味を知って頂きたいと思う」は、その言い訳であると私には思えてならない。私流に言い方を換えてみれば、谷川にはためらいはありつつも、「雨ニモマケズ」、そして「生活者」としての賢治、はたまた賢治の「実践」は、戦意高揚のために、あるいは滅私奉公のために非常に利用しやすいことに気づき、谷川はそこに飛びついたのではなかろうか。
 なお、私はこれに引き続いて、
 しかも、戦意高揚に利用価値や効果が頗る大であることに気づいた谷川は戦後、戦争協力したことを反省するどころか逆に、今度はいわば「青少年善導教育」のために賢治を大いに利用したのではなかろうか、という疑念を私は最近抱きつつある。
ということも言及したが、その疑念もさらに増してきた。

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