みちのくの山野草

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貧しい農民たちのために己を犠牲にして献身した賢治

2022-03-17 12:00:00 | 一から出直す
《三輪の白い片栗(種山高原、令和3年4月27日撮影)》
 白い片栗はまるで、賢治、露、そして岩田純蔵先生の三人に見えた。
 そして、「曲学阿世の徒にだけはなるな」と檄を飛ばされた気がした。

 私は少なくとも若い頃は宮澤賢治をとても尊敬していた。賢治は、貧しい農民たちのために己を犠牲にして献身した人だと。まさにあの詩句「雨ニモマケズ……サムサノナツハオロオロアルキ」のとおりに徹宵東奔西走し、遂に斃れたのだと。とてもそのような生き方は私にはできないが、そのような生き方をした賢治って凄い人だ、と崇めていた。ところが、年老いたいまは違う。この詩句は賢治がそうありたかった理想だったということは、その後に続く「サウイフモノニ/ワタシハナリタイ」から容易に確実に導かれるからだ(なぜ私はこのことに盲目だったのだろうか?)。のみならず、この「雨ニモマケズ」に書かれた事柄を検証したみたところ、賢治ほぼ何一つ実践などしていなかったことを知った(具体的には、拙著『本統の賢治と本当の露』の第一章の“「賢治神話」検証七点”等をご覧になっていただきたい)。
 そこで逆に、かつての私はある時点まで、賢治は「雨ニモマケズ」のとおり生きたとなぜ思い込んでいたのか。その理由を探ってみたいと思って取り組んできたのが、今回の〝一から出直す〟シリーズだ。その結果、
    やはり大きかったのは、小学校や中学校での国語の授業を通じてであった。
と思わざるを得ない。では、当時どんな教科書で習ったのかというとその記憶は私にはほぼないが、その頃に使われたのはこのようなもののはずだ。
【『中等新国語 文学編 二上』(坪内松三編、光村図書出版】

【〃奥付】

 なお、表紙は「坪内松三編」となっているのに、奥付では
    著作者 坪内松三
となっているところが気になる。
 それから、
本書の執筆に当たっては、左の方々の労を煩わしました。
 安藤新太郎
 石森 延男
  以下略
とあり、あの人物「石森延男」が関わっていたことを知れる。この件に関しては、先の投稿〝「雨ニモマケズ」と石森延男〟で投稿したように、石森延男の言として、
 戦後、わたしは、国定の国語教科書としては、最後のものを編集した。終戦前に使用していた国語教材とは、全く違った基準によってその資料を選ばなければならなかった。日本の少年少女たちの心に光りを与え、慰め、励まし、生活を見直すような教材を精選しなければならなかった。そこでわたしは、まずアンデルセンの作品を考えた。(中略)日本のものでは、賢治の作「どんぐりと山猫」を小学生に「雨にもまけず」を中学生のために、「農民芸術論」を高校生のために、それぞれかかげることにした。この三篇は、新しく国語を学ぶ子どもたちの伴侶にどうしても、したかったからである。
             〈『修羅はよみがえった』(宮澤賢治記念会、ブッキング) 92p~〉
を紹介した。
 また、中地 文氏は、
 とはいえ、教科書編纂の過程で、連合国軍総司令部民間情報教育局の係官から「雨にもまけず」の「玄米四合」を三合にするようにと言われ、宮沢家に了解を取りに行ったのは石森延男であった。そのときの状況を回想した「「麦三合」の思い出」に、石森は「一字のために全文を削除されるより、少しの改めをしても、その精神を、子どもたちに味ってほし」かったと記している。
             〈〃94p〉
と紹介しているが、これらの記述によれば石森の個人的な想いで、この当時の国語の教科書を通じて、判断力も未だ乏しく純朴な少年たちは思惑通りに教育されたといえるかもしれない。実際私が賢治を尊敬していたのも、その「成果」だったに違いない。

 ちなみに、この教科書の中には、「(一)雨ニモマケズ」という項があり、その中身は以下の通り。
【103p】

という項があり、その中身は以下の通り。
【104~5p】

【106~7p】

【108~9p】


 そしておわかりのように、以下のようなことなどが書かれていることが確認できる。
 それほど、この詩は、かれの生活態度その実践のあとを、なんのかざりもなくむきだしに書かれたものだからである。〈『中等新国語 文学編 二上』(坪内松三編、光村図書出版)106p〉

 死ぬまで農村の振興に努力をした。〈〃107p~〉

 指導にあたっては、その田畑の土をとって口になめてみるなど、いかにも実地に即したものであったというが、その態度は文字どおり愛と誠実にみちみちたものであった。〈〃108p〉

 それらの作品はかれの日記であり、感想録であり、実践記録であるとさえいうことができようか。〈〃108p〉

 かれが死の前日、見知らぬ農夫が肥料のことで尋ねてきたとき、病状を知っている家人は気が気でなかったが、かれは病床を起き出て階下の玄関に客を迎えた。そして、一時間もきちんとすわってていねいに教えていたということである。〈〃109p〉

 われわれが生きていく心がまえとして、この「雨ニモマケズ」の精神を自分の心とすることができるならば、人の心の中はどんなに平和であろうか〈〃109p〉

 そこで、中学生の私はこのような教科書で学んだことによって、『流石賢治ってすごい』と素直に感動し、次第に賢治を尊敬するようになっていったのであろう。そしてついに、『貧しい農民たちのために己を犠牲にして献身した賢治であった』と思い込むようになったのであろう。どうやら、石森延男谷川徹三の思惑どおりの少年に私は育ったと言えそうだ。
 しかし、今の私はこれらの記述はあやかしであり、そのまま信じることはできないということを知ってる(具体的には拙著『本統の賢治と本当の露』をご覧いただきたい)。言い換えれば、純真で素朴な私は賢治研究者等によって、嘘かも知れない賢治を信じ込まされたと、誤解を恐れずに言えば、騙されたいうことを否定できない。
 そこで私は改めて言う、
    もう止めて下さい、嘘かも知れない賢治を子どもたちに教えることは。
と。

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            〒025-0068 岩手県花巻市下幅21-11 鈴木守  ☎ 0198-24-9813

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