みちのくの山野草

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〝地方詩人〟を超える

2022-03-10 12:00:00 | 一から出直す
《三輪の白い片栗(種山高原、令和3年4月27日撮影)》
 白い片栗はまるで、賢治、露、そして岩田純蔵先生の三人に見えた。
 そして、「曲学阿世の徒にだけはなるな」と檄を飛ばされた気がした。


 米村氏は「〝地方詩人〟を超える」という項で、中島健蔵に関して次のようなことなどを論じていた。
 没後直後、賢治の評価が創り上げられてくる地点には、どうやら二つの差異化があったようだ。その一つは、科学者という認定があったこと。中島健蔵のことばを見よう。

 しかし宮沢賢治を素朴な自然詩人と思ひ誤つてはならぬ。彼は科学者であつた。そして東北地方の冷厳な自然力に対抗して、人間の生活を少しでも豊富にしようと努めて一生を終わつた技師であつた。(略)彼は一生の間、自分を失つたことが一度も無かつた。…投稿者略…

 もう一つは、実践者というお墨付きだ。これも中島による文章である。

 彼は、現実的に、地上の凶作と闘ひ出したのである。ともすれば高くのぼり勝ちであつた彼の歌声も、しつかりと地上に足を踏まへて、「因果交流電燈」 の青い照明の一つとして『県技師の雲に対するステートメント』を発し、「黒く淫らな雨雲」に対等の資格で語りかけるのである。しかし、徒に神秘的な晦渋を想像してはならなぬ。詩句は相変わらず奔放なイメージに溢れながら、目は水田の除草や、肥料や、稲の品種に向けられて、彼は雲を睨み温度計を眺めながら必死に働いているのだ。
              〈『宮沢賢治を創った男たち』(米村みゆき著、青弓社)208p~〉
 そこで、米村氏はおおよそ次のように纏め、
中島健蔵:一生を殆ど東北地方の農業のために尽くした彼は、世の所謂文士とは全く類を異にする一生を送ったのです」と実践者の賢治を強調する。
 引き続いて、賢治に関してそれぞれおおよそ、
伊藤信吉:「私は彼が詩人としてすぐれているばかりでなく、ひたむきに生活を支えて熱意していたこと」と評価する。
谷川徹三:「実践人として――土性調査や設計肥料(ママ)に堪能な、農民の相談相手や慰め手としての彼に関するものは特に美しく好ましい」 と評価する。
真壁仁:さらに救済者としてのレッテルを与える。
と纏めていた。
 ただし私は、これらの方々の賢治評についてはすんなりとは肯んずることはできない。それは賢治の実践を実証的に検証すればこのような事柄はほぼ成り立たない<*1>からである。言い換えれば、前者の3名は自分自身では裏付けを取ることもなく、まして検証することもなく、賢治作品をそのまま事実であると安易に還元したり、伝聞や誰かの記述等を信じ切ったが故の評価であると、私が調べた限りで言えるからである。とりわけ、谷川が言っていたのであろう「設計肥料」とか「慰め手」という用語に出会うとなおさらに、あやかしに見えてくる。また真壁の場合は、実際農業もしていたはずだからそうではないはずだと思ったのだが、賢治を信奉しすぎているので賢治の評価は危ういと思っている。実際、賢治が「救済者」とまで言い切れるだけの客観的根拠を私は知らないからでもある。

 そして米村氏はこの項の最後の方で、
 しかし、賢治像構築のプロセスで、賢治への想像ばかりが先行していたまさにそのとき、賢治に関する具体的な情報が公にされた。それが「雨ニモマケズ」 だった。
と言い切り、
 こんなわけで、この詩は、それまで曖昧だった賢治伝の空白を埋めるものとして、歪んだ受け止められ方をしたと考えられる。
              〈『宮沢賢治を創った男たち』(米村みゆき著、青弓社)210p~〉
と推論していた。私は目から鱗が落ち、膝を叩いた。な~るほど、と。

<*1:投稿者註> このことに関しては、拙著『本統の賢治と本当の露』を、特に「第一章 本統の宮澤賢治」を読んでいただけば賛同してもらえるものと思っております。

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