みちのくの山野草

みちのく花巻の野面から発信。

〔もう二三べん〕はやはり賢治が封印した詩稿だった

2017-03-08 10:00:00 | 賢治作品について
 木村東吉氏の論文
    宮沢賢治・封印された「慢」の思想 -遺稿整理時番号10の詩稿を中心に-
によれば、
 『新・校本宮澤賢治全集第十六巻』(上)年には、詩稿に付された三種の遺稿整理時番号が記載してあり、このうち「朱のスタンプインクをつけて押されたゴム印番号」は作者が死の床にあって、床の脇に分類して山積みにしてあった詩稿の状態を記録したもので、同一の山の詩稿に同じ番号を付したものとされている。
 これについて検討してみると、10の印がある詩稿が四八枚あって、黒クロース表紙Eの表紙裏にも、同じゴム印10が5カ所押されており、その力紙に先述のとおり「この篇みな/疲労時及病中の/心こゝになき手記なり/発表すべからず」とメモされている。以下これを10番稿と呼ぶことにして、このメモに従うならば、この10番稿は封印された詩稿群だったことになる。
              <『国文学攷』第一七六・一七七号合併号(広島大学国語国文学会編2003年)43pより>
とうことである。
 そこで『新校本宮澤賢治全集第十六巻(上)補遺・資料 草稿通観篇』(筑摩書房)の662p~から抽出してみると、いわゆる「10番稿」は下表のようになるだろう。

 したがって、〔もう二三べん〕は「10番稿」の一つだったということが判った。つまりこの詩はやはり賢治が公表を封印した詩稿群の一つであり、
     『この篇みな/疲労時及病中の心ここになき手記なり/発表すべからず
と記していた詩篇の一つであった。
 言い換えれば、本来ならばこの詩〔もう二三べん〕は世に知られることのなかったはずの詩であり、
    〔もう二三べん〕はやはり賢治が封印した詩稿群の一つであった。
ということで、私の予想どおりだった。

 なお、同じく「甲助」が登場している詩〔甲助 今朝まだくらぁに〕は10番稿ではなかった。この違いは何故だったのだろうか。それは、素朴に考えれば、先に
 こうして冷笑や慢に充ち満ちた〔もう二三べん〕を読んでいると、〔甲助 今朝まだくらぁに〕における甲助に対しての冷笑はまだそれ程のものでもないと思わせられてしまうくらいだ。
と評価したように、〔もう二三べん〕に較べればの話だが、〔甲助 今朝まだくらぁに〕の方にはそれほど冷笑や慢はきつくないからであったと理由付けできるから、多少分からない訳でもない。

 逆に言えば、賢治が封印するしないの基準がこれで少しだけ見えてきたような気もする。そこで、次回は封印された詩稿群について少し考察してみたい。

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