さて、賢治が『この篇みな/疲労時及病中の心ここになき手記なり/発表すべからず』と記して封印した詩稿群、いわゆる「10番稿」は下表のようなものであることが判った。
<『新校本宮澤賢治全集第十六巻(上)補遺・資料 草稿通観篇』(筑摩書房)662p~>
瞥見してすぐ判るように、『旧校本宮澤賢治全集』で言えば、『第四巻』に所収されているものが多い。中でも、背景を水色で着色した詩稿群はいわゆる「春と修羅 第三集」に所収されているものであり、かなりの数に上っていることも判る。
言い換えれば、巷間「春と修羅 第三集」と言われてはいるのだが、実はこの中には本来ならば賢治が「発表すべからず」と言い残していた、封印した詩稿が少なからずあったということになる。しかも現実には、賢治の遺志に反してそれらは公表されてしまったということになりそうだ。
そこで次に、現在「春と修羅 第三集」に所収されていてしかも「10番稿」であるものをそれぞれ読んでみて、私から見れば、賢治が封印しようと思った理由と関連しそうな記述(=〔もう二三べん〕と似たような傾向冷笑や慢を含む記述)があった場合には当該部分を抜き出してみることにした。
・715 〔道べの粗朶に〕
そっちはさっきするどく斜視し
あるひは嘲けりことばを避けた
陰気な幾十のなのに
何がこんなにおろかしく
私の胸を鳴らすのだらう
・735 饗宴
酸っぱい胡瓜をぽくぽく噛んで
みんなは酒を飲んでゐる
…(投稿者略)…
みんなは地主や賦役に出ない人たちから
集めた酒を飲んでゐる
……われにもあらず
ぼんやり稲の種類を云ふ
こゝは天山北路であるか……
・738 はるかな作業
楽しく明るさうなその仕事だけれども
晩にはそこから忠一が
つかれて憤って帰ってくる
・740 秋
なし
・1015 〔バケツがのぼって〕
なし
・1022 〔一昨年四月来たときは〕
人は尊い供物のやうに
牛糞を捧げて来れば
・1025 〔燕麦の種子をこぼせば〕
なし
・1033 悪意
食ふものもないこの県で
百万からの金も入れ
結局魔窟を拵えあげる、
そこにはふさふ色調である
・1036 燕麦播き
なし
・ 午
それこそは
時代に叩きつけられた
武士階級の辛苦の記録、
しかも殷鑑遠からず
たゞもうかはるがはるのはなし
折角の有利な企業への加入申込がないので
老いた発起人はさびしさうに、
きせるはわづかにけむりをあげて
やっぱりこっちをながめてゐる
・1048 〔レアカーを引きナイフをもって〕
なし
・1066 〔今日こそわたくしは〕
なし
・1077 金策
悪口、反感、
十八や十九でおとなよりも貪慾なこども
なにもかもみんないけない
・1079 僚友
なし
・1082 〔あすこの田はねえ〕
なし
・730ノ2 増水
なし
・1020 野の師父
なし
・1021 和風は河谷いっぱいに吹く
なし
・1088 〔もうはたらくな〕
なし
・ 台地
なし
・ 停留所にてスヰトンを喫す
なし
以上が、「第三集」所収の詩篇の中で「10番」のゴム印を押された詩稿群である。確かにこれらの中には〝〔もう二三べん〕と似たような傾向冷笑や慢を含む記述〟があったものもあるが、そうとも言えないものもかなりあったということもこれで判った。となれば、賢治が封印しようとした理由は他にもあったと言えそうだ。
続きへ。
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“賢治作品についてちょっと』の目次”へ。
”みちのくの山野草”のトップに戻る。
《鈴木 守著作新刊案内》
この度、お知らせしておりました『「羅須地人協会時代」再検証-「賢治研究」の更なる発展のために-』が出来いたしました。
◇『「羅須地人協会時代」再検証-「賢治研究」の更なる発展のために-』(定価 500円、税込み)
本書の購入をご希望なさる方がおられましたならば、葉書か電話にて下記にその旨をご連絡していただければまず本書を郵送いたします。到着後、その代金として500円(送料込)分の郵便切手をお送り下さい。
〒025-0068 岩手県花巻市下幅21-11 鈴木 守
電話 0198-24-9813
なお、本書は拙ブログ『宮澤賢治の里より』あるいは『みちのくの山野草』に所収の、
『「羅須地人協会時代」検証―常識でこそ見えてくる―』
のダイジェスト版です。さらに詳しく知りたい方は拙ブログにてご覧下さい。
また、『「羅須地人協会時代」検証―常識でこそ見えてくる―』はブログ上の出版ゆえ、紙媒体のものはございません。
《鈴木 守著作既刊案内》
◇『「涙ヲ流サナカッタ」賢治の悔い』(定価 500円、税込)
ご注文の仕方は上と同様です。
なお、こちらは『宮沢賢治イーハトーブ館』においても販売しております。
☆『「涙ヲ流サナカッタ」賢治の悔い』 ☆『宮澤賢治と高瀬露』(上田哲との共著) ★『「羅須地人協会時代」検証』(電子出版)
『羅須地人協会の真実―賢治昭和二年の上京―』、『宮澤賢治と高瀬露』のご注文につきましても上と同様ですが、こちらの場合はそれぞれ1,000円分(送料込)の郵便切手をお送り下さい。また、こちらも『宮沢賢治イーハトーブ館』において販売しております。
☆『賢治と一緒に暮らした男-千葉恭を尋ねて-』 ☆『羅須地人協会の真実-賢治昭和2年の上京-』 ☆『羅須地人協会の終焉-その真実-』
ただし、『賢治と一緒に暮らした男-千葉恭を尋ねて-』は在庫がございません。
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なし
・1015 〔バケツがのぼって〕
なし
・1022 〔一昨年四月来たときは〕
人は尊い供物のやうに
牛糞を捧げて来れば
・1025 〔燕麦の種子をこぼせば〕
なし
・1033 悪意
食ふものもないこの県で
百万からの金も入れ
結局魔窟を拵えあげる、
そこにはふさふ色調である
・1036 燕麦播き
なし
・ 午
それこそは
時代に叩きつけられた
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やっぱりこっちをながめてゐる
・1048 〔レアカーを引きナイフをもって〕
なし
・1066 〔今日こそわたくしは〕
なし
・1077 金策
悪口、反感、
十八や十九でおとなよりも貪慾なこども
なにもかもみんないけない
・1079 僚友
なし
・1082 〔あすこの田はねえ〕
なし
・730ノ2 増水
なし
・1020 野の師父
なし
・1021 和風は河谷いっぱいに吹く
なし
・1088 〔もうはたらくな〕
なし
・ 台地
なし
・ 停留所にてスヰトンを喫す
なし
以上が、「第三集」所収の詩篇の中で「10番」のゴム印を押された詩稿群である。確かにこれらの中には〝〔もう二三べん〕と似たような傾向冷笑や慢を含む記述〟があったものもあるが、そうとも言えないものもかなりあったということもこれで判った。となれば、賢治が封印しようとした理由は他にもあったと言えそうだ。
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