みちのくの山野草

みちのく花巻の野面から発信。

加藤完治に学ぶ

2020-12-30 20:00:00 | 甚次郎と賢治
〈『「賢治精神」の実践【松田甚次郎の共働村塾】』〉

 では今度は、「加藤完治に学ぶ」という項からである。それは、安藤玉治が、
 「最上共働村塾」を開こうと決意するにあたって、加藤完治の果たした役割も大きかった。
             〈『「賢治精神」の実践【松田甚次郎の共働村塾】』91p〉
と断定していたことが気になったからだ。もう少し説明を付け加えれば、私は甚次郞には加藤完治の影響がそれ程あったわけではないと思っていたが、この「断定」によってそうとは言い切れなさそうだということを知ったので、そのことを少し検証せねばならないと思ったからだ。
 では、安藤はどう論を展開していたかというと、
 当時はよく、〈農学校に入ると、農業がきらいになって卒業する〉といわれたものだった。
 そうした農学校の教育に見切りをつけ、独自の農村青年教育を始めたのが加藤だった。
 加藤が創設した日本国民高等学校、山形県自治講習会の実績をもとに民営の私塾、校長の人格が教育の基本をなすというデンマークの国民高等学校本来の理念を追求するものであった。しかし、筧克彦の古神道にもとづく農本主義思想を鼓舞する加藤の教育方針は、デンマークのそれとは全くちがっていた。授業も、せまい教室の中だけで行われるのではなく農場が道場であり、宇宙全体が教室であるとされた。
 早朝五時には太鼓の音に目をさまし、どんな寒い朝でも禊を励行、農場に出ては汗の勤労を通して人格を錬磨し、農場に黒板を持ち出して知能の啓発にはげむ、という教育であった。
             〈同91p~〉
というように論じていた。

 そこで私は、「筧克彦」の名があったし、「」といえば「やまとばたらき」ということをすぐ連想し、あれと似ているなと思ったのが、まずは、大正15年に花巻農学校に開設された国民高等学校である。ちなみに、同校の日課は、
  起床(6時)
  点呼・洗面・掃除
  国民体操
  やまとばたらき
  …投稿者略…
 日課の皇国運動(やまとばたらき)は、後に六原道場などに持ち込まれた。目的は皇国精神を発揚することにあり、県当局にとっては国策に沿った主要な訓練であったろう。
 この学校の開設時期は真冬であり、手足が冷たくて困ったことを覚えているが、宮澤賢治は寒い中厳しい行事を率先して生徒と共に実行した。
             〈『校本 宮沢賢治全集 第十二巻(上)の月報』(筑摩書房)』〉
という。
 そして次に、まさに「六原道場などに持ち込まれた」とあるように、あの六原青年道場とも似ているなと思った。ちなみに、『六原道場』(伊藤金次郎著、協同公社出版部)によれば、同道場の日課については、
一、起床午前五時
一、参拝及び国旗奉計掲―午前五時半
一、日本体操及び武道(午前五時四十五分より一時間、雄たけび及び駆け足を行う)
 …投稿者略…
 日本体操といふのは、石黒英彦の恩師、筧克彦博士の創案にかかわるもので、一名皇国運動(やまとばたらき)からとり入れた『青年の部』のものだ。
というからだ。
 よって、これらの三つは、
    加藤完治の日本国民高等学校≒花巻農学校に開設された国民高等学校≒六原青年道場
と言えるのではなかろうか。つまり、これらの三つはほぼ似ていて、加藤の影響が強かったということになりそうだ。

 では肝心の最上共働村塾についてだが、そこでの日中行事は、
 起床―四時又は五時。直ちに掃除、草刈、家畜管理。朝の行―七時。體操、朗唱、天明禮拜。…投稿者略…
             〈『土に叫ぶ』226p〉
ということだから、最上共働村塾は上掲の「三つ」に似ていないこともない、という程度にしか私は思っていなかった。それは、以前の投稿〝加藤完治の責任は?〟において、
 そして直感したことは、松田甚次郎が為したことは加藤完治のそれとは決定的に違っている、ということだ。………①
と述べたことにも通底している。
 だが、安藤の見方は違っていた。なぜなら、安藤は、
 松田は昭和三年の一年間をここで(友部の日本国民高等学校のこと)過ごした。
 以後の松田の行動を見る限り、加藤校長の影響は大きかった。…投稿者略…農村の救済という使命を自己に課し、共働による私塾での農村青年の教育という方法にも加藤の影響が見られよう。
             〈『「賢治精神」の実践【松田甚次郎の共働村塾】』92p〉
と論じていて、加藤の影響は大きかったと断じているからだ。
 そこで私は、『あれっ?』と声を発した。『土に叫ぶ』の中にはたとえば、しばしば小野武夫の名は登場していたが、加藤完治の名は殆ど登場していなかったのではなかろうか、ということに気づいたからだ。

 続きへ
前へ 
 “「松田甚次郎の再評価」の目次”へ。
 ”みちのくの山野草”のトップに戻る。

《新刊案内》
 『宮沢賢治と高瀬露―露は〈聖女〉だった―』(「露草協会」、ツーワンライフ出版、価格(本体価格1,000円+税))

は、岩手県内の書店で店頭販売されておりますし、アマゾンでも取り扱われております
 あるいは、葉書か電話にて、入手したい旨のお申し込みを下記宛にしていただければ、まず本書を郵送いたします。到着後、その代金として当該金額分の切手を送って下さい(送料は無料)。
            〒025-0068 岩手県花巻市下幅21-11 鈴木守
            ☎ 0198-24-9813
 なお、目次は次の通りです。

 そして、後書きである「おわりに」は下掲の通りです。




コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« アイガー・トレイル2(7/2)... | トップ | アイガー・トレイル3(7/2)... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

甚次郎と賢治」カテゴリの最新記事