因みに現在では、このアプト式鉄道は静岡県の大井川鐵道井川線(千頭駅~
井川駅)のアプトいちしろ駅から長島ダム駅間で実際に営業運転が行われている。
「南アルプスあぷとライン」と呼ばれるこの路線は、昭和29年に中部電力がダム
建設のために開通させた専用軌道がその前身である。
赤色に塗られ白いラインの入った可愛らしいミニ列車(トロッコ列車)は、
ここから南アルプスの懐深く入り込むが、出発点の千頭駅の標高は300mで、
終点の井川駅が700mだから、25㎞余りの間に400mほど登ることになる。
沿線途中の長島ダムの建設で、井川線の線路の一部が水没するため、その
内の4.8㎞が付け替えられた。
その折アプトいちしろ駅から、次の長島ダム駅の間1.5㎞が1000mにつき90
mも上がる日本一の急勾配区間と成った。この勾配を上り下りするために、
レールの間にラックレールを敷き、機関車の車輪の間にあるピニオンと呼ば
れる歯車をかみ合わせて進む「アプト式鉄道」が採用された。
この駅では、そんな特殊な機構を持つED90形機関車が最後尾に連結される。
列車は歯車の噛み合わせを確かめるように、ゆっくりと、ゆっくりと車輪を軋ま
せながら急坂を上る。その勾配は、車窓から見ても十分に認識出来る程の傾きだ。
やがて右手に高さ109m幅308mの巨大なダムが見えてくるとアプト区間は終わる。
ここで最後尾の機関車を切り離しこの路線のハイライト、奥大井湖上駅に向かう。
数々の難工事の末に生まれた貴重な存在であった信越本線碓氷峠のアプト式
鉄道(旧碓氷線)は、昭和38(1963)年9月碓氷新線の開通により日本の近代
化に向けた大きな貢献の足跡を残し、その70年余の歴史に幕を閉じている。
(続)(写真:大井川鐵道・南アルプスあぷとライン)
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