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2013-09-13 | bookshelf
 久保三千雄著『小説 春峰庵事件 浮世絵贋作事件』からわかる、1934年昭和9年に起こった、肉筆浮世絵の贋作詐欺事件の真相は、こうでした。
 天才的な模写絵が描ける矢田金満少年と、絵の勉強をしていた三男・修(小説では治)に、長男の三千男が指示を与えて、写楽、北斎、歌麿、岩佐又兵衛など浮世絵の巨匠の贋作を描かせ、父親・千九郎が真物に見えるように細工を施し、画商の金子浮水が「真物」として顧客に売って、金子と三千男が甘い汁を吸っていました。
 数少ない浮世絵が入手できるので、顧客は入手経路を他人にバラさないし、個人コレクターは自分だけが楽しむ為、多くは蔵へ仕舞い込んでしまい、人目にさらされる機会が少ない、という安心感があり、贋作制作は続けられました。
 ところが、しばらくすると商品がだぶついてくるようになりました。そこで考えたのが、肉筆浮世絵の入札会でした。それには、真物だと信じさせるお膳立てが必要でした。
 浮世絵の巨匠たちの肉筆画が大量に発見されるには、相当な人物がコレクションしていたと思わせなくてはなりません。そこで、金子らは、松平春嶽を連想させる春峯庵という号の、旧大名の華族から発見された、という話をでっち上げました。さらに、当時浮世絵の最高権威だった文学博士・笹川臨風(小説では竹内薫風)に、鑑定と図録の序文を依頼しました。笹川臨風は、多額の報酬と引き換えに、作品を絶賛した序文を書きます。笹川が絶賛すると、彼に師事していた藤懸静也(小説では藤田誠一)帝大教授も賛同しました。
  『小説春峰庵事件』に登場する人物
 藤懸静也は、同年文学博士になり、東京帝大教授となって、美術史界の泰斗と呼ばれた人物でした。これらの権威に裏づけされた作品なら、誰もが本物だと思うことでしょう。世紀の発見と報じた新聞もありました。入札会では、当時のお金で総額20万円の内およそ9万円が売約済みになったそうです。
 しかし、入札会の内覧会の時から、贋作疑惑が浮上しました。新聞各社が疑惑事件として書き立てたため、売約はほとんどキャンセルとなり、春峯庵なる人物が架空の存在だとばれて、金子浮水、矢田三千男、修が実刑を受けました。鑑定をした笹川博士については、真贋鑑定が正確にできるのかが争点となり、警察は、本物と金満少年が描いた絵で実験しました。正しく判定すれば逮捕されますし、わざと間違えれば地位と名誉を失います。博士は、金満少年のを本物だと答え、地位と名誉を失いました。
 笹川博士に賛同していた藤懸教授は、自分の身が危ういと気づいた時に手を引いたので、無事でした。本物そっくりの模写絵を描いた金満少年は、未成年だったためお咎めなし。むしろ天才少年画家として有名になり、ある有名実業家で浮世絵収集家に乞われて、本格的に名画の模写を描くことになりました。しかし、病弱だった彼は、19歳で病死してしまいました。
 結局、贋作詐欺は失敗に終り、被害も大きくなかったようです。この事件の教訓は、お金は人をだめにする、ということです。あと、人は権威に弱い。
 利用された薄幸の少年、金満くんだけが不憫に思えます。しかし、少年の描いた模写が、目利きの画商を欺くくらい素晴らしい出来だったのでしょうか。本の表紙↑の浮世絵が、彼の描いた絵です。東洲斎写楽と書いてなくても、写楽っぽい絵です。紙や顔料に江戸時代のものが使われていれば、鑑定しても真贋の判断は難しいかもしれません。
 事件はその後、風化していきましたが、これらの贋作がその後どうなったのかが、気がかりです。

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