いろはに踊る

 シルバー社交ダンス風景・娘のエッセイ・心に留めた言葉を中心にキーボード上で気の向くままに踊ってみたい。

桜 89編

2005年11月03日 11時23分39秒 | 娘のエッセイ
 毎年この時期になると、人々は桜・サクラと騒ぎ出す。そして薄桃色の小さな
花が開き始めると、決まって皆が言う。「桜って本当に綺麗ね。桜はやっぱりい
いよね」と。その様子は、まるで日本には桜の嫌いな人はいないかのようで、何
か不自然なものを感じる。

 だって現に私は、どうして桜だけが皆にそんなにすかれるのかわからない。確
かに、あの薄桃色は控え目だし、群れて咲いている桜の花々を遠くから眺めれ
ば、まるで絵画のようだと感心する。でも、それだけだ。

私の大好きなトルコキキョウを手にした時のようにワクワクもしないし、ハッピ
ーな気分になることもない。
 ああ、こんなことをこっそりおもっている私って、日本人的ではないのかな。

 他の人は、桜のどこがそんなに好きなんだろy。小さくて華奢な薄い花びらと、
淡い色合い、そして散りぎわの良さ、といったところだろうか。ああ、まるで男
が好む女の条件みたいだ。

 そういえば、心理学者の女性がある本で書いていた。女の子は植物で(つまり
根っこがあり、水平移動ができない=行動の自由が無い)、男は動物(足があ
り、自分の意思で水平移動が出来る=行動の自由がある)という対照性が、
文化のなかに深く根を下ろしていると。

 日本の男の多くは、はっきりした主張やライフスタイルを持って自立した女性
よりも、自分より弱く依存的な女性のほうが、扱い易くて好きのようだ。

その上、女性の価値は若さにあると固く信じている。そんな男達の願望を、見事
に桜は叶えている。

桜は花の可憐さを思いっきり見せたかと思えば、その少しあとには、はかなくも
潔く散り、目の前から消える。桜は、まだ透き通るような薄桃色の花びら姿のま
ま、花としての命を終える。

 つまり、桜を女をして置き換えたとすると、彼女は女として一番容貌が美しい
時期には惜しげもなくその姿態をさらし、男達を楽しませる。そして、老いが襲
ってくる前に怨みごとのひとっも言わずに、男の前から一陣の風と共に消えてく
れるといった具合だ。

 桜が咲き初めてから二週間近く経った。春というには強すぎる日差しのなか、
ひらひらと桃色の小さな花びらが風に吹かれ舞い踊る。桜が散る様は物悲しく
て、ふと、私の足も止まる。
 
コメント
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