邦画ブラボー

おすすめ邦画(日本映画)のブログ。アイウエオ順(●印)とジャンル分け(★印)の両方で記事検索可能!歌舞伎、ドラマ感想も。

「どっこい生きてる」

2006年04月14日 | ★人生色々な映画
「ニコヨン」という言葉は
日給240円だったことからきているそうだ。
今は無い言葉ですけど。

バラックに住んでいる日雇い労働者の一家は
立ち退きを迫られている。
どぶさらいをしてわずかな金をかせぐ毛利(河原崎長十郎)。

家を明日に壊されるというところまで追い込まれ
妻は二人の子供を連れて田舎の親戚の元へ行く。

とにかくすさまじい貧困である。
今日子供に食べさせる米もない。雨露をしのぐ家も無い。

偶然職にありついて有頂天になった毛利は
仲間から借りた金を懐にいれたまま、
宿で知り合った胡散臭い男(中村翫右衛門)に勧められて飲んだくれてしまう。

宿というのがまたすごい。

板の間に布団を敷いただけのところに20人ほどが寝ている。
仕切りも何も無い、いわゆる相部屋。

心優しい日雇い仲間の水野(木村功)などは、
家はあるからまだいいでしょう・・と思ったら!
子沢山の上にろれつが廻らない老人も抱えていた。
誰もかれもがぎりぎりの生活だけど、表情は明るい。

明るくないのは金を盗まれ、見つけた仕事も断られた毛利だった。
絶望しているまもなく、田舎に行ったはずの家族が
舞い戻ってきてしまう・・

河原崎長十郎のべらんめえ調の台詞がおなかにどすんと響く。
声がいい!
「人情紙風船」を彷彿とさせるすごみだった。

絶望しきった主人公が
子供とブランコに乗るシーンがあるが、
ブランコからぶっ飛んで発狂!してしまうのかと思う、ものすごい
顔であった。

宮島義勇のカメラはどこかヨーロッパ映画を思わせる。
ニコヨン仲間に飯田蝶子もいる。

貧困の恐ろしさと
それでも生きていかざるを得ない人間の
悲哀を感じたことでした。

そして希望は?

1951年 今井正監督作品

製作 : 松本酉三 / 宮川雅青
脚本 : 岩佐氏寿 平田兼三 今井正 
撮影 : 宮島義勇
美術 : 久保一雄

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新藤兼人の「どぶ」

2006年04月13日 | ★人生色々な映画
京浜地帯の河童沼に掘っ立て小屋が並んでいる。

徳さん(殿山泰司)、ピンちゃん(宇野重吉)、
やくざあがりの安さん(藤原釜足・爆笑)、
元役者の忠さん(信欣三 )たみ(飯田蝶子)、
松枝(中北千枝子)などがひしめきあって暮らしていた。

そこへつる(乙羽信子)という知恵遅れの女が迷い込んでくる。

乙羽信子の体当たり演技にまたぶっとぶ
開いた口がつるのようにふさがらなくなってしまう。

人の良いつるを騙して娼婦に仕立て、
稼ぎをピンはねしようというのが
徳さんとピンちゃんと忠さんのアイディアだった。

まんまとひっかかったつるは真っ白けに顔を塗りたくり
ボロ着物をまとい、夜な夜な駅前で客引きを始める。

この白塗りの顔といいますのが・・・

「志村けんのバカ殿様」そっくりなのである。
バカ殿はこの映画にインスパイアされて生まれたとしか、
私には思えない。

コミカルな展開から一変して
終盤に大きな悲劇が起きる。
画面は一気に緊張感をともない、
劇的なクライマックスを迎える。

音楽は伊福部昭。盛り上げます。

ピンちゃんの慟哭はフェリーニの「道」、
ジェルソミーナを失ったザンパノを思わせる。

河童沼の人たちが悪人ではないだけにやりきれなくなる。
悲惨すぎる結末にまた口があんぐり開いてしまった。

芸達者が揃っている。
山村聡、左卜全、チンピラ姐さん・・みなイイ味ですが、
乙羽信子はすごい。
この人には何度ぶっ飛ばされたことだろうか!

「フォレスト・ガンプ」のトム・ハンクスや
「レイン・マン」のダスティ・ホフマンがアカデミー賞主演男優賞なら
乙羽も同等の賞はもらえただろうに。

1954年 監督:新藤兼人
製作:吉村公三郎 脚本:新藤兼人 / 棚田吾郎 撮影:伊藤武夫
音楽:伊福部昭 美術:丸茂孝

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「雲ながるる果てに」

2006年04月11日 | ★人生色々な映画
桜の季節に「同期の桜」を聞いた。

特攻隊基地で出撃を待つ学徒兵たちの姿を描く。

50年に松竹を退社したのち、
独立プロを設立した家城巳代治監督の作品。

国を思う気持ちでいっぱいの若き特攻隊員は純粋でいいやつばかり。
上官たち(岡田英次・神田隆)は心無く冷たい人間として描かれている。

「今日はどのくらいの的中率かな」「あいつらは腕が未熟だからな」
「なあに。特攻はいくらでもいるさ」

そんな台詞を端正な顔で悠々と喋る岡田英次を
これほど憎たらしいと思ったことは
私の映画鑑賞人生にはなかった!

天候不順のために、心ならずも隊員たちは
しばしの猶予が与えられる。

「雨降って 今日一日を生きのびる」

深見中尉(木村功)は腕を負傷したため
笠原中尉(沼田曜一)ら仲間を見送り
心中はおだやかではなかった。

台詞のひとつひとつが耳につきささってくる。

「なあ俺たちは地獄に行くのかな、それとも天国か」
「お国のために死ぬんだから天国だろう」
「いや、人を殺して死ぬんだから地獄だ」「俺は絶対天国に行くぞ」

木村功が雪の降る故郷の思い出を語ると
(小さな時計屋の居間。優しい母親山田五十鈴が餅を焼いている)
あたり一面粉雪が舞い降りてくるようだ。

回想シーンをはさむなんて酷い。

親友の大瀧中尉(鶴田浩二)もまっすぐな眼をした男の中の男だ。
両親や幼馴染が面会に来ると聞いて子供のように喜び、庭駆け回るのだが、
汽車が着く直前に出撃命令が下ってしまうのだった・・

歓喜から絶望へ。急転直下。
絶句するほどのメリハリの利かせ方もまた酷い。

便所に行ってくると言って部屋を出た大瀧は
林の中で慟哭したあと、湖に飛び込み水しぶきをあげて泳ぐ。
深い悲しみと生命の輝き、若さの爆発が感じられていい場面だった。

その一部始終をひとり見ていた深見(木村功)は
包帯をかなぐり捨て自分も出撃させてくれと上官に頼み込む。

出撃の用意をし始めた深見の様子をいぶかった仲間、
「お前何をしてるんだ!」
「俺もみんなと一緒に死にたいんだ」
「やめろ、死ぬのは俺たちにまかせろ」「俺も貴様たちと死にたいんだ」

カツゼツが良すぎて哀しすぎるぞ木村功と鶴田浩二!
見つめ合う瞳が美しすぎるぞ~~!

絶妙なタイミングで流れる「同期の桜」
もはや私の涙は防波堤突破!怒涛のように流れるにまかせる。

間に合わなかった両親への手紙を読む大瀧の声でこの映画は終わる。

「お父さん、お母さんあと一時間の命です・・・・・・
いつまでも長生きしてください・・
身長・・何尺何寸、体重何貫目!大瀧中尉、きわめて健康!」
きわめて健康ったって・・アンタ・・

日付は昭和20年4月16日。

これほどまでに痛ましく残酷な映画もなかなかない。

そういえば石原慎太郎さん脚本、
特攻の母を題材にした映画がクランクインしたと聞いた。
気にはなるが、もう泣くのは嫌だ~。

監督 : 家城巳代治 脚本 : 八木保太郎 家城巳代治 直居欽哉
撮影 : 中尾駿一郎
美術 : 五所福之助 

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「野盗風の中を走る」

2006年04月06日 | ★ぐっとくる時代劇
娯楽時代劇の名監督稲垣浩作品。

戦国時代。馬を駆り、盗みを繰り返す野盗たちが
荒れ果てた村に立ち寄る。
盗むものさえ無いこの村でなぜかワルどもは
困っている百姓たちを助けるためにとどまることに。

時代設定、馬、「百姓なんて狼だ!」と対立するところ、
村人との協力、村娘との恋、勇ましい音楽、
百姓たちの野良歌のフューチャー

・・な・に・か・に似ている・・・
と、言うまでも無く・・

「七人の侍」に酷似しているのです・・
「隠し砦の三悪人」にも少しかぶっているかも。

なぜこんなに似たものを作ったのだろうか?

あの神がかり的な完成度を持つ作品とどうしても比べてしまうのは
仕方が無いが、
稲垣監督「秘剣」でも冴えた演技を見せていた市川染五郎
ここでも荒々しくもナィーブな若武者を好演していて光っていた。
今の染五郎と同じくらいの年だと思うが
息子よりいいような・・・
そうそう!中村吉右衛門(萬之助)は最初本人とわからなかったが、
やはり上手い。百姓上がりの愛嬌ある盗賊の、印象深い演技はさすが~。

松本幸四郎まで出ているのでいいところを見せるかと思いきや、
詰めの甘いオジサンに扮してもったいない。
親子三人共演しているところが歌舞伎ファンのみならず、たいへん貴重かも!

盗賊の親方、夏木陽介の人物像が今ひとつ書き込まれていないのが残念。
野武士たちが
得にもならないようなことに命をかける
その「動機」もイマイチぴんとこなかった。

他に佐藤允、中丸忠雄、多々良純、中丸忠雄 、谷晃など。
ストーリーが二転三転するところは面白かったが
「明日に向かって撃て」的な最後はあっけなかった。

雪村いずみが純真な村娘で伸びやかな歌声も披露。
寺の住職役で笠智衆。

どこかB級っぽいところが肩凝らなくて
アレがなければ十分秀作として残ったのにと思う。

1961年  脚本 井手雅人 稲垣浩
原作 真山美保 撮影  山田一夫 音楽 石井歓 美術  植田寛

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「ふんどし医者」

2006年04月04日 | ★人生色々な映画
面白い題名だからコメディか?と思いきや、
そうではなかった。

田舎医者とその妻、二人を取り巻く人々との心温まる物語。

江戸末期。
蘭法医、小山慶斎(森繁久弥)の妻(原節子)は
無類の丁半博打好き。

負けが続いて金が無くなると
愛妻のためにふんどし一丁になることから慶斎は
ふんどし医者と呼ばれるようになった。

原節子がちょうはんばくちをやるのです。

ちょっと変わった話を書いたのは中野実。
時代劇の名監督稲垣浩が撮った。

慶斎(森繁久弥)は出世の道を蹴って
大井川のたもとの宿場にとどまり、貧しい人々を看ていた。
一方、長崎で机を並べた池田明海(山村聡)は御殿医の職に着いていた。

ある日喧嘩で半死半生になった半五郎(夏木陽介)が担ぎ込まれてくる。
慶斎はいちかばちかの腎臓摘出手術を施す・・
ガラス瓶の中には取出した腎臓がゆ~らゆら・・

「ブラックジャック」や「赤ひげ」のように名医だけど、
シャイで
とっても毒舌なところが森繁久弥にぴったり。
夫を支える貞淑な妻と夫唱婦随、息のあったところを見せる。

最初、似合わない夫婦だなあと思ったが
見終わる頃にはこの上なくしっくり見えるところが名優二人のなせる技?

菊島隆三 によるユーモアが利いた台詞が楽しい、ほろりとさせるいい映画。
江利チエミが出ていますが、この映画では歌っていません。

監督 : 稲垣浩  原作 : 中野実  
脚色 : 菊島隆三  撮影 :山田一夫  
音楽 : 団伊玖磨  美術 : 中古智

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