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全てが中途半端『愉楽にて』by林真理子

2019年09月03日 | 小説レビュー
『愉楽にて』by林真理子

~大手医薬品メーカー九代目、久坂隆之は53歳。副会長という役職と途方もない額の資産を与えられた素性正しい大金持ちで、シンガポールと東京を行き来し、偏愛する古今東西の書物を愛でるように女と情事を重ねる。
スタンフォード留学中に知り合った友人、田口靖彦は老舗製糖会社の三男。子会社社長という飼い殺しの身が、急逝した妻の莫大な遺産により一変。家の軛から自由になるために、女からの愛を求め、京都で運命の出逢いを果たす。
時代の波に流されず、優雅で退嬰的な人生をたゆたう男たちが辿り着いたのは―。「BOOK」データベースより


『日経朝刊連載時から話題沸騰!絢爛たる贅沢な官能美の世界を描く傑作長編』などと、大絶賛の記事を見たので、図書館で予約して借りてきましたが、結果は残念でした

筆者の林真理子さんは、直木賞も受章されおり、選考委員にもなっている高名な作家さんで、エッセイを含めて、おそらく200作品ぐらいは発表されているんですが、実は林真理子さん初読なんですよね(^_^;) ※小池真理子さんは大好きですが・・・(^_^;)

そんなんで書評をするのはおこがましいのですが、今作について勝手に言わせて貰うと、「男心を良くわかってらっしゃるし、もちろん女性心理の描写も秀逸!でも所々で無駄な描写や余計な修飾が多く見られ、興醒めすることもしばしば・・・」という感じでしょうかね。

主人公の久坂は53歳で、もう1人の主人公の田口も同年代でしょう。僕より4つ5つ年上の設定で、時代感覚というか、肌感覚というか、何となく共感できる部分もあれば、「そんなこと思うか?」というようなこともあったりして、あまり没入出来ませんでした。

村上春樹氏の小説に良く登場するような『格好いい大人の男』ではなく、やはり女性目線で描かれているからなのか?何となく『格好悪いオヤジの足掻き』のようなものが見え隠れして、読んでいて気持ちが良くなかったです。

また、時折『京ことば』が登場するんですが、「惜しいねぇ~、あと一歩かな」という感じで、ますます気持ちが萎えました。

日経新聞朝刊の連載から単行本化されたので、パートごとの区切りがイマイチで、「久坂⇒田口⇒久坂」という切り替えも、ハッキリと区別されている感は無く、ダラけてしまった感じもあります。

そしてクライマックス?というあたりから、一気にまとめに入り、エンディングの謎の刺青男の登場も謎のままで、いきなり物語が終わってしまいます。

懐石、河豚、フレンチ、イタリアン、スペインなどの様々な料理や高価なワイン・シャンパン、着物やジュエリー・アクセサリー、女性のスーツやドレスなどの細かい描写、ラインで交わす言葉の一節一節などにも味わいがあり、「さすがは林真理子さん」と舌を巻く反面、「くどいなぁ~」と思うこともしばしば。

それでいて、建物や内装、風景や季節感の描写、光彩や陰影の使い方などには物足りなさを感じますし、「自分の好きなジャンルの描写は丁寧だが、それ以外はおざなり」、「俗っぽく、やや品性に欠ける表現」という印象も拭えません。

男女入り乱れて、いろんな登場人物と交わる、二人の主人公ですが、全員との関係性が中途半端な形で終わっています。

単行本化されるにあたり、例えば編集者の方などと相談しながら、構成や表現にも大きく手を加えられたら、もう少し統一感というか、まとまりのある小説になったかも知れません。

浮世離れした世界を垣間見る事が出来たという点を評価しても、
★★★3つですね。
コメント
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