素浪人旅日記

2009年3月31日に35年の教師生活を終え、無職の身となって歩む毎日の中で、心に浮かぶさまざまなことを綴っていきたい。

鼻血

2012年03月27日 | 日記
先の同窓会、秋山さんのコメントにもあるように“記憶も薄れていまいち話がかみ合わない部分があって”というのは至極当然のこと。同窓会というのは“人間の記憶のおもしろさ”と出会う場でもあるのである。

 授業や行事の思い出をそれぞれが記憶の糸をたどりながら談笑している輪に入ってきたSくん、「中学の頃のことはほとんど忘れているが、先生の鼻のガーゼだけは奇妙に覚えている、鼻はもう大丈夫ですか?」その場にいる者には何のことかピンと来ない。「何それ?」という空気が支配した。「そんなことありましたよね」と念を押すSくん。鼻の治療の記憶は絶対忘れることのできないものだったが、どの時期だったかは忘れていた。「ああ君らを教えていた時か」ということで鼻血談義になった。

“鼻血”に関する忘れられないことは2つある。1つは高2の時、もう1つがSくんの記憶にある時である。

 高校2年の時、原因がわからないのによく鼻血が出るようになった。当時、谷岡ヤスジのギャグマンガでの“鼻血ブー!”が流行していたこともあり、授業中などに前ぶれもなく鼻血が出てくるのには辟易していた。期末テストが近くなったある日、テスト中に鼻血が出てくると困るので病院で診てもらうことにした。当時、耳鼻咽喉科は電車で4駅の鵜方にある志摩病院という総合病院しかなかった。遠回りになるが朝一番に診察してもらい、バスを使って伊勢に行けば午後からの授業には間に合うだろうとふんでいた。

 開口一番医者は「何分ぐらいで止まりますか?」と訊ねてきた。咄嗟のことであり、あまり今まで鼻血が止まるまでの時間を意識したこともなかったので“そんなに長くはない”というつもりで「5分ぐらい」と答えた。途端に医者はむずかしい顔になり、看護婦に指示を始め「呼ばれるまで廊下の椅子で待っていてください」と診察室から出された。

 待ちながら壁の時計を見ているうちに“5分って長い”と思い始めた。“1分~2分ぐらいで十分止まっていた”と思い直したが訂正もできず、結果、レントゲン、脳の検査、血液検査といろいろな所にまわされての検査漬け。検査の結果が出るまで午前中いっぱいかかり、学校は欠席せざるを得なくなった。検査の結果は異常なし。レントゲン写真を見ながら「鼻を強く打ったことはないか?」と質問した。「サッカーをしていてヘディングでせり合うとき、背が高いので相手の頭がよく鼻にあたる」と言ったら「それや」ということになった。結局、鼻腔の中の骨が曲がっていて血管にあたりやすいのでちょっとした刺激で血管がきれるので、むやみにさわったり、鼻を強くかむことはしないという注意だけで終わった。『あの時5分と言わなければ、勇気を持って早く訂正すればもっと早く解放されていたのに』と後悔しながら家にもどった。

 それ以来、鼻血とは無縁であったが、Sくんのいた7期生の学年を担当している冬に、高校時代と同じように鼻血がよく出るようになった。授業中などに出るとやばいので近くの耳鼻咽喉科に行った。“今度は5分なんていい加減な時間は言うまい”と医者の前に坐ったら「おちょこ何杯ぐらい出る?」という質問。“???誰が鼻血をおちょこで受ける!?ティッシュにしみた血をおちょこに換算できる人おるのか!?”と不意打ちの質問に少々イラッとするが『耳鼻咽喉科の医者は神経質でむずかしい人が多い』という養護教諭の先生の愚痴と高校時代の教訓『医者は患者の話から最悪のストーリーを描く』が頭をよぎり、医者がたいしたことはないと判断するあたりをさぐりながらうまく話を収めた。

 「とにかく鼻血で授業に差し障りが出たら困るので」とお願いした。「じゃ、ガーゼ詰めておきましょう」と言ったのはいいが、「大盛りサービスじゃなくていい」と言いたくなるぐらい大量のガーゼが詰めこまれた。息苦しさと鼻声は我慢できたが、毛細管現象による鼻水は難儀した。ポタポタと落ちつづけるので授業中は鼻血より始末が悪かった。Sくんはそのあたりの苦闘がとても印象に残っていたという。通院するたびに新しいガーゼを取り替えるだけでいっこうに完治宣言がされなかった。2回までは我慢したが、3回目には医院を出るなり「やっておられるか」とつぶやきガーゼを引っ張り出してゴミ箱に捨てた。あの時の爽快感は覚えている。当然通院もやめた。それから30年余り“鼻血”で悩まされることはない。しかし“2度あることは3度ある”“災いは忘れたころにやってくる”という。心しておこう。

 しつこいが夜空が気になったので確かめた。やはり昨夜とは位置関係が変わっていた。これで納得。

 
コメント (3)
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