かどの煙草屋までの旅 

路上散策で見つけた気になるものたち…
ちょっと昔の近代の風景に心惹かれます

70年代のミステリーツアー(1)~海外の本格ミステリーにはまる

2013-11-11 | 

ぼくが初めてミステリーというものを読んだのは、小学5年生くらいの時だと記憶している。学校の図書館でポプラ社から出ていた山中峰太郎版の名探偵ホームズシリーズ『まだらの紐』を読み、とにかく面白くてハマってしまった。図書館にあるホームズ全集を読みつくし、同じポプラ社の南洋一郎版「怪盗ルパン全集」へとなだれ込んだのだが、こちらのシリーズは図書館の蔵書が少なく、親にねだってかなりの冊数を買ってもらった。この時代の小学生で、ポプラ社の児童向けのホームズ、ルパンシリーズで読書やミステリーの面白さを知った人はかなり多かったのではないだろうか。かくゆうぼくもこのシリーズでミステリーが大好きになり、中学生になって翻訳物ミステリーにどっぷりとハマってしまうきっかけになったのだった。

中学生になると本屋で見つけた創元推理文庫に夢中になった。創元推理文庫はミステリーを「本格推理小説」、「法廷物・倒叙・その他」、「スリラー・サスペンス」と大きくジャンル分けしているのだが、ぼくは特に「本格物」と呼ばれる謎解きを主体としたミステリーに強く惹かれた。文庫の背表紙にある本格物の目印「帽子の男と?マーク」を頼りに、名作と呼ばれる作品を手当たりしだい読んでいった。エラリー・クイーン、ヴァン・ダイン、アガサ・クリスティー、ディクスン・カー、すべて戦前1920~30年代頃に出版された、まさにミステリーの古典と言える作品ばかりなのだが、これが無茶苦茶面白かった。

この時代の本格ミステリーは、名探偵(懐かしい響きだなあ~)が犯人のトリックを超人的な推理で看破し、犯人を言い当てるというお決まりの展開と思われがちだが、決してそういう作品ばかりではない。斬新なトリックなどなくとも、探偵が純粋な論理と推理だけで謎を解き、犯人を割り出していく思考の過程が楽しめる、まさに知のエンターテインメントと言える作品にこそ本格物の神髄がある。一見解決不可能な難解な謎が、探偵の論理のアクロバットで、最後に解き明かされるときに感じるカタルシスは本格物の醍醐味で、本格ミステリー愛好者にはこれがたまらないのだ。

ぼくたち読者も探偵と同じ手がかりが与えられ、解決に至る推理比べが楽しめる作品(読者への挑戦状があるクイーンの国名シリーズ)などは、ちりばめられた何気ない伏線に注意しながら読み進めるのだが、犯人にたどり着いたためしがなく、結局最後の大団円での探偵の推理披露で、見事に騙された悔しさと快感に浸るのがこれまた楽しい。現代の洗練されたミステリーと比べると、あまりにベタな展開で古色蒼然とした感はまぬがれないが、閉ざされた空間で起こる連続殺人事件をめぐる犯人と探偵の知の攻防は、クラッシックの名曲を聴くようで、時代を超えても色褪せない様式美が堪能できた。


中学~高校の時に読んだ創元推理文庫から、印象に残ったぼく好みのベスト10をあげてみた(順不同)

■Yの悲劇/エラリー・クイーン
■オランダ靴の謎/エラリー・クイーン
■グリーン家殺人事件/ヴァン・ダイン
■僧正殺人事件/ヴァン・ダイン
■樽/F・Wクロフツ
■皇帝のかぎ煙草入れ/ディクスン・カー
■黄色い部屋の謎/ガストン・ルルー
■赤毛のレドメイン家/イーデン・フィルポッツ
■毒入りチョコレート事件/アントニイ・バークリー
■アクロイド殺害事件/アガサ・クリスティ

1976年にハヤカワ・ミステリ文庫が創刊され、創元推理文庫版では読めなかった名作が読めるようになったときは嬉しかった。特にクリスティーの作品はほとんどが網羅され、「そして誰もいなくなった」を初めて読んだ時の衝撃は今でも鮮明に覚えている。


■70年代文庫で出版された、古き良き時代の本格探偵小説黄金期の作品たち。