六年前に健康診断をして大腸がんが見つかったおじさん{病院での治療を拒み、路上で死ぬ覚悟をしていた}は前回私に会った時に言った「もし四回続けて、オレが来なかったら{カレーの炊き出し}死んだと思ってくれ」と。
彼がその言葉を残してから三週間後を彼は姿を見せた。
彼はいつものようにカレーの炊き出しの列の一番最後のところの近くにいた。
「良く来てくれました。どうですか?体調は?」
「オレ、落ちていた本のなかからがんのことを書いてあるのを見つけてさ。オレのこと{自分の病気のこと}が書いてあるところだけ切って、いま読んでいるんだよ。結構治療もしないで生きている人が居るんだね。まだまだ死なないね」
もう笑顔はなく、真剣な顔つきで彼はそう言い、その場で足踏みをするようにしていたが、私には何故か彼が地団駄を踏んでいるように思えた。
「死ぬのはもう覚悟しているから、もう何も怖くない。どこで死のうか、それだけを考えている」と言っていた彼ではあるが、やはり死の恐怖は彼の想像を超え、常にその形を変えてゆっくりと締め付けるように彼に覆いかぶさっているのかと思った。
彼は私にその恐怖や弱さを見せたくなかったのか、カレーをもらった後、その場から消えるようにして居なくなった。
私は食べ終わったカレーの容器を集め終え、公園のトイレに手を洗いに行くと、さっきまで彼が握りしめていただろう、引きちぎられた二枚のページがねじられ、手洗い場のところの捨ててあった。
彼の恐怖がそこに捨ててあった、彼が捨てられない恐怖がそこにあった。
彼は何を思い、痛み、今日また覚悟をしてたのだろうか。
救いを求め、何を自分の意志とは反し、切に願ったのだろうか。
私はもっと彼の傍にいる必要があったのではないか。
ねじられ捨てられたページが重く、重く、ただそこに佇んでいた。
洗っても洗っても洗い落とすことが出来ない彼の不安がそこにあった。