それは今から6年ほど前のことになるでしょうか。ご近所のお店仲間「甘味処こまめ」の店長・かえさんから「今度、うちのお店で三遊亭遊吉師匠をお招きして『こまめ寄席』を開催します。遊吉師匠は、私の幼馴染みの友人のご主人です」とのお誘いを受けました。この時の「こまめ寄席」で遊吉師匠の高座を堪能しながら「落語をじかに聴くのは、いつ以来だろう…」としばし、アタマの中にチカチカ灯る走馬灯の数を数えるワタシ。そして、生まれてはじめて生の落語を観聴きしたウチの同居人さんは「遊吉さんの落語、とっても楽しい…」と、すっかりイッパシの落語ファンになってしましました。以来、年に一度、夏の「こまめ寄席」の折には、生意気にも常連の風情で遊吉師匠の軽妙な高座を楽しませてもらっています。
そして時は今、立春を超えた如月5日の日曜日。ウチの二人が三遊亭遊吉師匠と同じくらい熱い視線を寄せている立川志らく師匠の独演会に向かいました。ワタシの地元・鎌倉での「志らく独演会」といえば、鎌倉芸術館がほぼ定席となっていますが、今回は隣町・逗子の文化プラザホールでの開催となります。蛇足ながら、日曜日の午後となれば、通常、ワタシの生業のひとつである陶芸教室真っ盛りとなります。が、例年「志らく独演会」の時に限っては、何故か陶芸教室の予約が入りません。なんとも不思議な限りです。その例に従えば、もし仮に志らく師匠が毎日 逗子葉山鎌倉あたりで独演会を開いていたら、ウチの陶芸教室には全く予約が入らずに程なく「御取り潰し」ということになってしまうのでしょうか。思わず、「落語家ならまだしも、落伍家はご免です…」とポツリつぶやく雨の午後…。
閑話休題。
昨年末から待ちに待った「立川志らく独演会」に向かう道すがら、ポツリポツリと「逗子探訪の巻」。
なにはさて置き、地元・佐助のお店仲間「甘味処こまめ」さんとさまざまな「えにし 」で繋がっているこちらのお店で心のこもった和菓子をお買い上げ。
逗子銀座通りの一角、和菓子の上品な味わいとともに、端正な店構えがひと際 目を引きます。
さまざまな「えにし」といえば、こちらのお店の名前はまさに「ENISHI」。これがまた、とても良い雰囲気の飲み屋さんなのです…。
そして、ふらりと立ち寄った喫茶店は「えにし」や「いにしえ」の風情がそこはかとなく漂っていました。
美味しいコーヒータイムを経て、いよいよ志らく師匠の高座を目前に控えて ふと会場隣接の逗子市立図書館に「ふらり旅」。
思いがけずも、巷の本好きの間で「隠れた名著」との評価高きこれらの著書のページをパラパラと。
偶然の一致か、いずれの著作も縦書きではなく「あえて」であろう横書きでしたためられています。この横書きが、なんとも読みやすい。
立川志らく師匠は古典落語とともに「シネマ落語」の世界も探求しています。たぶん、古典落語は縦書きの世界を前提としているものと思われます。そして「シネマ」字幕の態勢は、まさしく横書き。縦横組んずほぐれず、解が見えなくなりつつある中、ウチの同居人さんは「みうらじゅんさんと宮台さんが書いたこの本は、中高生はもとより、そのママさん達に読んでほしいかも…」と、のたまっていました。
ちょっと斜めからの「保健体育」や、中高生にはそこそこ難解な「14歳からの社会学」を斜めに読みあさり、いよいよ志らく師匠の独演会へ。この日の主演目は、まさしく子どもが夫婦の縁を取り持つ「子別れ」。
まずは「お楽しみ」と称して、同門の立川志の輔、談春師匠に対する心優しき悪口や、トランプ大統領や蓮舫さんへの痛烈トークを交えつつ、「親子酒」の世界へ。
そして、スペシャルゲスト・水道橋博士とのトークショーへと進みます。今を去ること30年ほど前、立川談志師匠に師事していた志らくさん、そしてビートたけしさんに仕えていた水道橋博士さんはともに関東のお笑いを司るライバルとして、お互い言葉を交わすことは無かったそうです。その当時、談志・たけしの酒席が繰り広げられたお店「美弥」の外、ともに師匠を待つ若かりし志らく、水道橋博士はこの時に限って「お互い、『美弥』で飲めるようになりたいよなぁ…」と真顔で語り合っていた思い出を披瀝していました。
志らく、水道橋博士の両氏が若き日に夢を語り合った「美弥」さんの映像の一端が我が家の中に残っていました。
この日の「立川志らく独演会」。
主演目の「子別れ」はもちろん、「お楽しみ」の演目「親子酒」が絶妙の仕上がりだったように思います。その高座はまさに抱腹絶倒の40分間。落語にはビギナーたるウチの同居人さんをして「これまで志らくさんの 芝浜、死神、松竹梅、そして文七元結…、いろいろ観てきたけど、この 親子酒 は最高に笑えた…」と、大満足の様子でした。なるほど、ワタシにとってもこのたびの 親子酒 は「志らく名演集」の一つに数えられる一席のような気がします。
スペシャルトークにて共演した水道橋博士とのツーショットの撮影が特別に許されて、渾身の一枚。
ふと振り返れば、ウチの陶芸教室にかよって来てくれている方々の中に、落語を愛するご婦人、お嬢さんの方々がなんと多いことか。とりわけ、談志、志の輔、談春、志らくに連なる立川流に対する支持は絶大なものがあります。今回のスペシャルトークにては、水道橋博士いわく「やくみつ〇…」、「〇〇久保清…」伝々、珍妙な芸名にまつわる噂が闊歩していることも披露してくれました。
その真偽の沙汰はともかく、落語の世界に於いては「腕の立つ職人なのに、酒が入るとだらしない…」というまこと困った御人が数多く登場します。恥ずかしながら、ワタシも腕が立つかどうかはともかく、お酒のタチは甚だ危なっかしいかぎり?。
そして「子別れ」の噺の中、だらしない熊さんを支えてきた健気なおかみさんの名前は、なんたることか、ウチの同居人さんとほとんど等しい「おみつ」さん。まこと、この人もじつに健気で、ワタシとしてもありがたいやら、少々困ったことやら…。
かつて、談志師匠は「落語とは業の肯定」と言っていましたが、ワタシとしては「落語も人の世も業の肯定、を…」と説いてみたい今日この頃…。
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