劇作家・文筆家│佐野語郎(さのごろう)

演劇・オペラ・文学活動に取り組む佐野語郎(さのごろう)の活動紹介

立つ鳥跡を濁さず、演劇教育から去る

2014年03月15日 | 日本橋女学館高校
  「演劇」が高校教育の正課(学校設定科目)として認定されるまでには先達たちのご苦労の積み重ねがあったのだが、私に講師のお話があったのは、平成7年(1995)のことであった。神奈川県立総合高等学校創立にあたって、類型科目(自由選択)のうち舞台系科目(基礎演技・戯曲研究・演劇概論/舞台技術・舞台実習=後年追加)の担当依頼であった。463の固定席・舞台設備の整った多目的ホールを活用しきるには専門性が問われる。私は舞台照明家や音響専門家の友人の協力を得て、10年間の職責を果たした。この仕事と重なりまた入れ替わるようにして、慶應義塾大学(三田)「映画演劇論」を9年間、日本橋女学館高等学校(演劇研究クラス)を8年間受け持った。
 先月末、日本橋女学館2年生の最終授業があった。「戯曲構造の比較」の2回目で、『オイディプス王』を中心とした授業だった。普段は座学よりも実技のダンスや演技に熱心な生徒たちも、この古代劇の物語には興味を持ったようだった。授業後、やんちゃな娘たちから<寄せ書き>のプレゼントがあり、記念の写真を撮った。
 3月10日午前、日本橋女学館高等学校・第109回卒業証書授与式に参列した。この期の卒業生が1年から3年まで教えた最後の生徒たちになった。校長から直接証書を戴く彼女たちの横顔を眺めながら、会場となった多目的ホールの舞台設備の設計時の頃を思い出していた。
 新校舎建設にあたり、青図の段階から友人の舞台監督に参加してもらい、限られた予算の範囲でプロ並みの設備を実現した。卒業公演など本格的な照明が必要な時にだけ、灯体(スポットライト)などをリースする。仕込み・ゲネプロ・本番には、オペレーターをはじめとするスタッフは「演劇ユニット 東京ドラマポケット」(代表:佐野)のメンバーが担当し、卒業生と在校生が操作助手や制作助手として参加する。
 ♪蛍の光、♪仰げば尊し、で感動のうちに卒業式は幕を下ろした。午後からは恒例になった都市ホテルでの保護者主催の「謝恩会」。先生方と保護者たちがテーブルを囲み、生徒=わが子をめぐって、歓談に花を咲かせる。ステージで気持ちを若返らせて歌を歌う。ある生徒のお母さんに挨拶される。『先生のお蔭で、うちの子、学校を続けられました』授業前や休憩時間に私に話しかけまくる生徒だった。聞いてあげることしかできない場合もあるが、それも教師の役割だと改めて思う。
 さて、この日は予定がぎっしり詰まっていた。夜、東京から横浜へ移動。神奈川総合高校近くの寿司屋へ向かった。フィールド発表会(演劇)を終えた演劇講師たちに対する「慰労会・激励会」が待っているのだ。私の在任当時から、応援してくださる先生方が「一席」を設けてくださっていて、これも恒例行事となっている。
 幸せなことに、教え子たちに「演劇教育」のバトンタッチができた。神奈川総合も日本橋女学館も、神奈川総合卒業3期生・5期生・6期生・8期生が担当講師として働いている。4月からは教え子の教え子も続くことになっている。≪立つ鳥跡を濁さず≫、演劇教育から去る日となった。


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