劇作家・文筆家│佐野語郎(さのごろう)

演劇・オペラ・文学活動に取り組む佐野語郎(さのごろう)の活動紹介

新作オペラ『雪女の恋』制作過程2<脚本②>

2018年04月30日 | オペラ
 私の演劇上演には音楽が欠かせない。もちろん演劇の中心は俳優の演技であるが、演劇作品全体に占める音楽の位置は重要でしかも大きな存在だ。近年上演した「音楽演劇」「全体演劇」という冠が付いた劇作品では、劇世界を開き登場人物を操る「神」の役割や、中世のフランス北東部と近世江戸との往還、その時間と空間を変転させる働きを担っている。しかし、それらは劇を動かす働きはしても、あくまでも俳優の演技の外側に位置する存在であった。
 東京ミニオペラカンパニーvol.2『雪女の恋~ニ幕~』は、ストレートプレイではなく、オペラ作品である。つまり、俳優から歌手へセリフから歌唱へと表現の主体が変わるとともに全編に音楽が流れることになる。演劇では外側にあった音楽が、歌劇では内側というよりど真ん中に存在することになる。
 オペラは、演劇ではなくクラシック音楽の範疇に分類されている。私は演劇人であり、また音楽界に身を置いたこともないので、クラシック音楽の構造や表現に対しては不案内だ。そのため、新作を手掛けるにあたっては、作曲家の全面的な協力を仰がねばならない。
 構想から2年、書き上げた第一稿は一応オペラ脚本の体裁にはなっている。付曲されることを前提としているため、散文ではなく韻文で、セリフではなく歌詞で…厳密な押韻ではなくとも…書かれている。また、「始め・中・終わり」のドラマも内蔵している。しかしそれは作曲家の眼から見ると、劇形式ではあっても音楽表現の構造にはなっていなかったようだ。
 私がドラマを構想するとき劇中劇の構造になることが多い。ギリシャ古典劇で生まれた「コロス(舞唱団)」が物語る世界が入れ子細工のようになって主要人物が登場したり、主人公の幻想が過去の現実を呼び寄せたりする。今回の『雪女の恋~ニ幕~』も、混声合唱団が昔話の世界を開き、雪の精と人間のドラマを進める役割を担っている。当初、この「合唱」に演劇の<群読>表現を用い、(劇中劇としての)アリアや重唱と対比させようとした。しかし、演劇の<語り>と音楽の歌唱表現とのつながりは音楽構成の流れにおいて問題があり、劇中劇の構造は生かしながらも最終的には「合唱」は<群読>ではなく<男声/女声/合唱>という声楽表現に落ち着くこととなった。
 また、演劇では必要最小限のセリフで進めるが、音楽では構成上同じ言葉=歌詞がリフレインされることが一般的だ。しかし同時に、ある曲が後になって繰り返されることは少ない。その場面で同じメロディが流れる必然性がある場合に限られる。雪女の姉妹が相手に念を押すような歌詞(前の場面にも出てきた)などは省かれることになった。昨年から今年にかけて細部の修正を合わせると、決定稿まで八稿を数えただろう。
 作曲家・鳥井俊之氏は、辛抱強く私の意図をくみ取って作曲に当たられ、なんとか上演可能なオペラ脚本(=リブレット)になるまで導いてくださった。


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